中井友望×外山文治─映画に魅せられた人間が使える「魔法」

外山文治

 誰もいない家でひとり息をひそめて明日を夢見ていた少女は、映画という魔法と出会って私たちの元に現れてくれた。中井友望、現在24歳。中学校も高校も馴染めずに通えない時期があった彼女は、孤独な日々の中で偶然にもビデオ屋で手にした映画『ヒミズ』に影響を受けて表現する喜びを知った。

「生きてるっていいな、と羨ましくなりました。私もそっち側に行きたかった」

 やがて彼女は芸能事務所に履歴書を送り、俳優の育成カリキュラムを受講し、19歳の時にミスiDというオーディションプロジェクトに挑戦して見事にグランプリを受賞することになる。

 「グランプリしか欲しくなかったんです。自己肯定感は低いのに絶対に受賞すると信じていたんですね。確信があったわけじゃなくて、うまく言葉にできないですけど……」

 そういう人生の流れを「運命」や「縁」だと表現してしまえば、いささか面白みに欠ける。その導きこそが映画に魅せられた人間が使える「魔法」である。

 中井友望はそこから瞬く間に様々な映画に出演することになっていく。『少女は卒業しない』、『サーチライト-遊星散歩-』さらには8月公開の『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』に至るまで話題作は続き、彼女は常に群衆の中でも存在感を示している。特筆すべきは青春の1ページを描く際に、登場人物のひとりに必ず彼女がキャスティングされることだ。

「きっと物語の中や日常生活の中で、実際にこういう子が一人いると思って頂けているのだろうと思います。だから、今は仕事が積み重なっていく感覚があります。でも『もっと』という想いもあります。もっともっとお芝居をしていたいです」

 群雄割拠の世代の中で、他者からの評価や批評の声はもちろん気になるという。

「SNSはあまり見ないようにしています。身近な人の意見は受け止めますが、たまたま目に入った人の声を受け止めて立っていられるほど私はまだ強くはないです。同年代のライバルの活躍も本当は見たくない……。同志だと言えるほど心が広くなれないです。でもそういう今の気持ちだって私は忘れたくないです」

 かつてのように部屋に閉じこもったままなら、他者によって傷つけられることもないだろう。それでも彼女はこの世界を一喜一憂しながら生きていく。普段は芸能以外の人達と共に過ごし、休みになれば本を読んだり一人旅をしたりして心のバランスをとっている。

「最近は山形に一人旅したことが楽しかったです。十六羅漢岩を見に行ったんですよ。日本海が好きで、居心地がいいしパワーを貰えます」

 そういってスマホを取り出して旅の写真を嬉しそうに見せてくれた彼女に、私は最後の質問をぶつけた。 

「中井さん、孤独は好きですか?」
「好きです」

 彼女の目は輝いていたように私には映った。明日が見えなくても、中井友望はきっともう一人ではないのだろう。こんなにも多くの人間が彼女の放つ魔法を待っているのだから。そしてその魅力は、今、部屋に閉じこもっている誰かの心を灯すはずである。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

中井友望
なかいとも|俳優
2000年1月6日生まれ、大阪府出身。オーディションプロジェクト「ミスiD2019」で、3500名の中からグランプリを受賞。2020年、TVドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』(日本テレビ)でドラマ初出演。その後、主な出演作として、映画『かそけきサンカヨウ』、『シノノメ色の週末』、『少女は卒業しない』、『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』、『炎上する君』、『サーチライト-遊星散歩-』、ドラマ『めぐる未来』(読売テレビ・日本テレビ系)、『ケの日のケケケ』(NHK総合)などがある。出演する映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』が8月9日公開。

撮影・取材・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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