毎熊克哉×萩原健太郎監督 対談後編ー『ブルーピリオド』と『傲慢と善良』

毎熊克哉

ほんの一瞬をホンモノにできるかどうかは練習にかかっていると思います──毎熊克哉

実際に取り組んだかどうかで演じ手の視線まで変わってきます──萩原健太郎監督

毎熊「『ブルーピリオド』と『傲慢と善良』が公開される萩原健太郎監督との対談の後編です。前回は萩原さんのパーソナルな部分についていろいろとお話ししましたね。最新作の『ブルーピリオド』は山口つばささんによる人気マンガが原作で、『傲慢と善良』は辻村深月さんのベストセラー小説が原作です。毛色の異なる二作という印象ですが、ご自身としてはいかがですか?」

『ブルーピリオド』©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

萩原「ひとつ作品を発表すると、どうしても似た系統の企画のご依頼が続きます。『サヨナラまでの30分』(2020年)の公開後には、音楽モノの企画案をいくつもいただいたり。でも個人的にはつねに新しいことに挑戦したい。そこで出会ったのが『ブルーピリオド』を映画化する企画です。絵画の世界をテーマとした映画は、そう簡単には成立しないだろうと思いました。絵画が静物であるのに対して、映画はアクションが重要ですからね。絵を描くシーンは吹き替えなしでやりたいと考えていたので、俳優のみなさんとは長い時間をかけて準備しました」

毎熊「吹き替えなしですか……いいですね。これまでの自分の経験からすると、役者本人は描かずに、プロの方に吹き替えをお願いするパターンのほうが圧倒的に多いじゃないですか。そっちのほうが効率がいいのは間違いありませんが、いち役者の視点でいえば、楽をしちゃいけないとも思うんです。実際に取り組んだかどうかはキャラクターの細部に表れるはずですし、各シーンごとの画にも影響するはず。とある作品で乗馬のシーンを撮るために長い時間をかけて練習したのに、撮影は一瞬で終わってしまった経験があります。でもこのほんの一瞬をホンモノにできるかどうかは練習にかかっていると思います。じっくりと時間をかけて役に挑めるのは理想的ですね」

萩原「本当にそうだと思います。実際に取り組んだかどうかで演じ手の視線まで変わってきますから。主演の眞栄田郷敦さんはとにかく集中力がすごくて、何時間も飲まず食わずで平気で描き続けるんですよ。あれには驚きましたね。みなさんの力が結集し、躍動感ある作品になりました。続いて公開される『傲慢と善良』は辻村さんの恋愛小説が原作で、シーンもセリフも読み物として完成しています。でも、それをそのまま脚本に起こす事はできません。小説の行間にある登場人物の機微を描く事に注力しました」

『傲慢と善良』©2024映画「傲慢と善良」製作委員会

毎熊「小説の映画化は、マンガの実写化とはまた違う難しさがありそうですね。いくら魅力的なセリフでも、実際に生身の人間が口にすると嘘っぽくなってしまうものも多いと思います。僕は役者なので、“言葉にしなくても、仕草ひとつで伝わるんじゃないか”と想像したりもする。僕はマンガが原作の場合は必ず読みますが、小説が原作の場合は読まないこともあります。マンガはビジュアルイメージを掴んでみなさんと共有するためにも必須であるいっぽう、小説は文字情報だけなので、解釈にズレができてしまったりもするなと」

萩原「たしかに、どこまで共有すべきかは難しいところですね。でも、それこそ前回お話ししたように、僕としてはみなさんとコラボレーションしてシーンを生み出していきたいと考えています。お陰様でこうして新作が二本も世に放たれることになりました。やっと自分自身が納得して、お客さんに作品を提示できるところまでこれたかなと。毎熊さんは『キング・オブ・コメディ』(1982年)が好きなんですよね。あのロバート・デ・ニーロが演じた狂気のコメディアンのような役柄に挑む際には、ぜひ準備に時間をかけてご一緒したいですね。笑える映画ではありませんが(笑)」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。出演する最新作『初級演技レッスン』(串田壮史監督)が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024にて7月13日にオープニング作品として上映。

萩原健太郎
はぎわらけんたろう|映画監督
1980年12月13日生まれ、東京都出身。2000年に渡英、米・ロサンゼルスのArt Center College of Design映画学部に入学し、帰国後は多数のTV-CM、MV、ショートフィルムの演出を手がける。2013年には初の長編脚本「Spectacled Tiger」が、米・サンダンス映画祭で最優秀脚本賞、サンダンスNHK賞を日本人で初めて受賞。2017年に初の長編映画『東京喰種 トーキョーグール』が公開、そのほかドラマW『いりびと-異邦人-』(WOWOW)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(Hulu)などを手がかる。最新監督作『ブルーピリオド』が8月9日、『傲慢と善良』が9月27日より劇場公開予定。

『ブルーピリオド』
監督 / 萩原健太郎
脚本 / 吉田玲子
出演 / 眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子 ほか
公開 / 2024年8月9日(金)全国公開
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

『傲慢と善良』
監督 / 萩原健太郎
脚本 / 清水友佳子
出演 / 藤ヶ谷太輔、奈緒
公開 / 2024年9月27日(金)全国公開
©2024 映画「傲慢と善良」製作委員会

撮影 / 池村隆司 取材・文 / 折田侑駿

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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