毎熊克哉×萩原健太郎監督 対談前編ーアメリカ映画から受けた影響

毎熊克哉

物事をいろんな角度から見ている方なのだなと──毎熊克哉

スペシャリティを持った人々がコラボレーションしてシーンを生み出していくべき──萩原健太郎監督

毎熊「今回は夏から秋にかけて、『ブルーピリオド』と『傲慢と善良』という二作が公開される萩原健太郎監督をゲストにお招きしています。この連載企画は“出会い”をテーマにしていますが、じつは萩原さんとはこの春にご一緒しているんですよね。大分県の別府市を舞台にした短編映画で、その打ち合わせの際にはじめてお話ししました。アメリカで映画の勉強をされたと言っていましたよね?」

萩原「もともとは高校卒業後に日本の映画の専門学校に進んだのですが、なんだかしっくりこなくて。それで幼い頃から憧れていたアメリカに、20歳ぐらいの頃に渡ったんです。単純にアメリカ映画がすごく好きだというのも理由のひとつですし、アメリカ在住の親戚がいるので、そこから受けていた影響も大きいですね。会うたびに日本にはないものを見せてくれましたから、子どもの僕にとってはすべてがまぶしくて。それに映画産業としてもアメリカは世界一ですから、映画の道を志す以上、一度は見てみたいなと」

毎熊「僕もアメリカ映画には大きな影響を受けているので、強い憧れがありますね。役者だけでなく監督もそうなのかもしれませんが、大好きな作品のワンシーンを真似るところから入ったりしませんか。でも当然ながら技術も経験も足りていないし、そもそもバックグラウンドがまったく違うので、同じようにはいかない。表面をなぞるだけでは作品として成立しないのだということに、やがてみんな気づくようになります。僕は海外で暮らした経験がないのですが、外での生活を経た方ならではの日本の社会の見え方があるんじゃないのかと思ったりします。灯台下暗し、というか」

萩原「西部劇なんかまさにそうですよね。ああいった作品は歴史上の文脈が何よりも重要で、日本に置き換えてみたってうまくはいきません。映画を学びはじめたばかりの頃の僕はティム・バートンが大好きで、自分なりの感覚で似た世界観の作品をつくろうとしたけれど、チグハグなものにしかなりませんでしたね。毎熊さんが指摘するように、アメリカでの生活は、帰国してから手がけた作品たちに影響しています。それこそ、ご一緒した短編ではマイクロアグレッションをテーマにしました。日本人的な感覚で人々が無自覚のうちに行ってしまっていることに関心があるんです。たとえば、世の中の“普通”を規定してしまう空気とか。どんなジャンルの作品にも要素として関わってきます」

毎熊「長編デビュー作である『東京喰種 トーキョーグール』(2017年)はちょっと特殊ですが、次作の『サヨナラまでの30分』(2020年)など、どこかカラッとした質感ですよね。僕の主観的な印象ではありますが、一つひとつのシーンが丁寧に積み上げられているいっぽうで、全体像に触れたときに価値観の余白のようなものを感じる。現場でご一緒し、さらにこうしてお話しする機会をとおして、その印象はより強いものとなりました。物事をいろんな角度から見ている方なのだなと」

萩原「それは監督として意識していることなので、感じ取っていただけて嬉しいです。現場で答えを出すのが監督の仕事であり、たしかに僕自身の中には答えが用意されています。でも、それはあくまでも僕がひとりで導き出した仮説でしかない。いろんなスペシャリティを持った人々がコラボレーションしてシーンを生み出していくべきだと考えているんです。絵画の世界に熱中する若者たちの姿を描いた『ブルーピリオド』では、すべてのキャスト・スタッフが一丸となって、映画ならではの“躍動感”を生み出すことに挑みました。ぜひ劇場で体感していただきたいです!」

※後編はweb限定

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。出演する最新作『初級演技レッスン』(串田壮史監督)が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024にて7月13日にオープニング作品として上映。

萩原健太郎
はぎわらけんたろう|映画監督
1980年12月13日生まれ、東京都出身。2000年に渡英、米・ロサンゼルスのArt Center College of Design映画学部に入学し、帰国後は多数のTV-CM、MV、ショートフィルムの演出を手がける。2013年には初の長編脚本「Spectacled Tiger」が、米・サンダンス映画祭で最優秀脚本賞、サンダンスNHK賞を日本人で初めて受賞。2017年に初の長編映画『東京喰種 トーキョーグール』が公開、そのほかドラマW『いりびと-異邦人-』(WOWOW)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(Hulu)などを手がかる。最新監督作『ブルーピリオド』が8月9日、『傲慢と善良』が9月27日より劇場公開予定。

『ブルーピリオド』
監督 / 萩原健太郎
脚本 / 吉田玲子
出演 / 眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子 ほか
公開 / 2024年8月9日(金)全国公開
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

『傲慢と善良』
監督 / 萩原健太郎
脚本 / 清水友佳子
出演 / 藤ヶ谷太輔、奈緒
公開 / 2024年9月27日(金)全国公開
©2024 映画「傲慢と善良」製作委員会

撮影 / 池村隆司 取材・文 / 折田侑駿

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DOKUSOマガジン7月号(vol.32)、7月5日発行!表紙・巻頭は森山未來×藤竜也!

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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