桃果×外山文治─愛を与えられるひと

外山文治

 桃果は陽だまりのような女優である。彼女の存在によってスクリーンは華やぎ、また周囲の人間は笑顔になる。その魅力を彼女の天性のものと言えば簡単だが、そのための気遣いと努力を大切にし続けてきた賜物であることが、対談を終えた今しっかりと分かる。今回は今勢いに乗る次世代女優、桃果の魅力に迫ってみる。

「私は見ている人を助けられる、そして見ている人に愛される役者になりたいです。誰かをいつも和ませたいし、きっと救いたいんですね。愛ってとても素敵だと思います」

 桃果は少し照れながら、微笑みを絶やさずに真っ直ぐに語る。一見するとアイドル的なフレーズ。しかしそれは間違いなく彼女の本心であることが伝わる。それは彼女がその境地に辿り着くまでに平坦ではない道のりを歩いてきたからである。

 芸能界に入ったのは九歳の頃――プロの水泳選手を目指していた彼女はスカウトされ、タレントかモデルか俳優か、何を目指すべきか分からいままに芸能事務所に入ったそうだ。

「最初の頃は子役が活躍するバラエティ番組に出ていました。そこから『ニコ☆プチ』という雑誌のモデルになりました。そしたら急に忙しくなって水泳の練習ができなくなったんですね。モデルとの両立が難しくなったのでモデルを選びました」

 幼い頃からドラマが大好きだった彼女は自然と女優業に関心を持ち、そこからは芝居一本の日々。いつしか彼女には目指すべき憧れの女優もできたという。

「綾瀬はるかさんです。演技ももちろんですが、あの愛らしい雰囲気がすごく素敵で。そして、誰からも愛されている。私はそういう方に憧れるし、パワーをもらいたいときには出演作や映像を見ています」

 やはりキーワードは「愛を与えられる人間」である。しかしその若さでどうして他者に目が向くのだろうか。もしかしたら彼女が昔から常に一目置かれる存在で誰かに何かをギフトすることが当たり前だったからだろうか。

「いえ。私自身はずっと苦しかったですね。大変だったことも、自分ではどうしようもできないことも沢山ありました。だからこそ、負けちゃいけないってずっと思ってました。ここを乗り越えたら絶対に次にいいことがあるからって自分に言い聞かせて、今も私はその積み重ねで、徐々に仕事と出会えている感覚です。一気に状況が変わるターニングポイントなんてなかったんですね。だからせめて他の人にはその人の人生を変えるようなパワーを与えていきたい」

 なるほど。若くして人生の光と影を見続けたからこそ、他人には笑っていてもらいたいのだ。そのあまりに成熟した想いに、私は九歳から戦ってきた彼女の足跡を見る。そして今、太陽のような彼女の存在にいよいよ注目が集まり始めている。近年では映画『消せない記憶』におけるヒロインや豪華キャストで注目を集めた『唄う六人の女』の出演など話題作が続く。

「最近、応援してくださる方が増えました。それがすごく嬉しいです。今年はとにかくイキイキと、色んな基盤を作っていきたいです。今は種を蒔く時です。来年に花が開くように。でもその間も辛いことじゃなくて楽しみながら過ごしていたい」

 毎日笑顔でいると、きっといいことが起こりそうだと語る桃果が、これからどんな花を咲かせるのか。花が咲くには太陽が必要だ。だからこそ太陽の匂いがする彼女の花は美しく慈愛に満ちたものになるだろう。その姿に私たちはきっと救われる。遠くない未来、彼女がスクリーンを通じて多くの人の太陽になることを願っている。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

桃果
ももか|俳優
2000年8月25日生まれ、神奈川県出身。小学生の時より『ニコ☆プチ』(新潮社)専属モデルを務め、『Rの法則』(NHK総合)等に出演。その後CMをはじめ、多くのドラマ、映画に出演。映画『消せない記憶』では主演を務め、その他の主な出演作に『人狼ゲーム デスゲームの運営人』、ドラマ『美しい彼』(MBS・TBS系)シリーズ、映画『唄う六人の女』など

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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