毎熊克哉×松本壮史監督 対談前編ー映画とドラマの違いと面白さ

毎熊克哉

劇中の登場人物だけでなく、それを演じる役者もとにかく魅力的──毎熊克哉

毎熊さんって手数の少ない芝居でも光る方ですよね──松本壮史監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC)

毎熊「今回のゲストは『サマーフィルムにのって』などの松本壮史監督です。松本さんは映画だけでなくテレビドラマもいろいろと手がけていますよね。一昔前の映画とドラマの比較だと、スクリーンで観る前提でつくられているのか、あるいは広告を挟みながらテレビ画面で観るものなのか。大きく分けてこの二つだったと思います。でも近年はテレビ画面以上にサイズが小さくなってきましたよね。それぞれに適した撮影や編集があるはずだと思いますが、それはお芝居に関しても同じで、劇場向けのものをそのままテレビの現場でやっても採用されないことが多いです。伝わりやすさも大切だと思うので、媒体に合わせて何が適切な表現なのか試行錯誤しています。ただ、劇場向けの細かいお芝居がテレビやスマホサイズでも通用するはずだと、いまもどこかで信じてはいます」

松本「ドラマの場合は観ている方に伝わることが第一なので、どうしてもキャッチーなものを求めてしまう時があります。配信ドラマもそうで、とにかく視聴してもらうためのつくりにしなければなりません。撮影や編集では引き画よりも寄り画を多く採用することも多いですし、そもそも脚本が映画とドラマでは違います。どちらの面白さもあります。いまの僕は立て続けにドラマを撮っているのですが、たまに映画館に行くと“このラストカット、長い……羨ましい!”なんて感じたりします。つまり、スクリーンで観るからこそ許される“余韻”というものを、映画は大切にしているわけなんですよね」

毎熊「松本さんの作品は『サマーフィルムにのって』をはじめ、若者にフォーカスしたものが多いですよね。その中でもとくに女性が主人公の作品が多い印象があります。そして誰もが魅力的。劇中の登場人物だけでなく、それを演じる役者もとにかく魅力的です。作品をつくるうえで、何をいちばん撮りたいと考えていますか?」

© 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

松本松本「ずっと思っているのは、ユーモアを大切にしたいということです。それはコメディ作品にかぎらず、シリアスな作品においても。とはいえ、“ユーモア”って何なんですかね。たとえば北野映画は、どの作品にもユーモアが感じられますよね。すごく暴力的な瞬間を周囲の人々が棒立ちで眺めているカットにだって、得体の知れないユーモアを感じる。しかも俳優は誰一人として笑わせようとしていない。こういったものに惹かれます。なので、特別に何か撮りたいテーマがあるわけではありません。ユーモラスでありたいだなんて、ちょっと恥ずかしいですね(苦笑)」

毎熊「僕も演じるうえではユーモアを大切にしています。これがあることでキャラクターが愛される理由になり得ますし、物語の展開によってはこれがあるからこそ、悲しみだったり恐れだったり、観る者に特別な感情を抱かせることにつながる。作品の手触りにも関わってきますよね。どの役を演じるときにも、そのキャラクターにおけるユーモアとは何なのかを考えます。松本さんのお話につなげると、やっぱり役者が笑わせようとしてもダメですね。その場に丁寧に存在した結果として笑いは生まれるものなのかなと。これってつまり、脚本や演出を大切にするからこそ浮かび上がってくるんじゃないですかね」

松本「『猫は逃げた』を観ていて思ったのですが、毎熊さんって手数の少ない芝居でも光る方ですよね。この“手数”というのは、あらかじめ用意されているセリフ以外の情報のことです。映画で目にする毎熊さんのお芝居って、表情や視線の動き、仕草などが控えめな印象です。ただただその場にいることに一生懸命。だからこそ、演じるキャラクターがチャーミングに映るんでしょうね」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。出演するNHK大河ドラマ『光る君へ』が毎週日曜に放送中。

松本壮史
まつもとそうし|映画監督
1988年1月16日生まれ、埼玉県出身。2021年に映画『サマーフィルムにのって』で長編映画デビュー。主な作品に映画『青葉家のテーブル』、WOWOWドラマ『ながたんと青と』、NHK 藤子・F・不二雄SF短編ドラマ『親子とりかえばや』、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)のほか、くるり、日向坂46、サニーデイ・サービスのMVなど。第13回 TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞、新人監督賞を受賞。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

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DOKUSOマガジン2月号(vol.29)、2月5日発行!表紙・巻頭は前田敦子、センターインタビューは東出昌大!

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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