毎熊克哉×内山拓也監督 対談後編ー2人が追求する自分だけの表現

毎熊克哉

作品ごとにゼロから役を立ち上げたい──毎熊克哉

映画づくりは生活の延長線上にある闘いです──内山拓也監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC)

毎熊「内山拓也監督をゲストにお招きした回の後編です。前回は“映画づくりにおけるスタイル”の話になって、つねに新しい方法を模索されていると言っていましたよね。僕は役者として経験を積めば積むほど固まってしまうものがある気がして、 意識的にそれらを捨てるようにしています。なので新しい役を演じる際、作品ごとにテーマを持って臨むようにしています。たとえば、目の前で起きることに新鮮に反応するためにあえて無計画で現場に立つことがあれば、台本を読み込んで構成を考え抜いてから立つこともある。いつもは選ばない方を選んでみたりとか。 自分のスタイルを固めたほうが楽だとは思うのですけどね」

内山「自分の映画づくりは、日常と地続きのところにあるものだと思っています。特別なお祭りなどではなく、生活の延長線上にある闘いです。物語やキャラクターそのものが地続きに存在し、別の現実が立ち上がってくるまで向き合い続けるため、映画づくりにおける構想、脚本、撮影、仕上げは、常に生活と縫い目がありません。そういった考えから、キャストもスタッフもみんなが活躍できる、居心地の良い場所をつくりたい。だからこそ監督とは、一番若手のスタッフからもきちんと間違いを注意してもらえる人間でなければダメだと思っています」

毎熊「キャリアを重ねることもそうですが、監督は立場的に権威を持ってしまいますもんね。社会的にも無意識のうちに自分の立場は変化しているはずですから、僕自身も自覚するよう心がけています。内山さんがいまのフレキシブルなスタンスで活動を続けていくことは、思いがけないタイプの作品との出会いにつながるかもしれませんよね。僕自身、無自覚のうちに作品や役のタイプの好き嫌いが生まれてしまっていて、そうするとやはり好きなほうを選んでしまう。でも、もしも苦手だと思い込んでいたほうを選んだらどうなるのだろう。自分のスタイルを決めつけないことで、新しい扉が開けたりします」

内山「僕もかつてはテレビシリーズでもなく、ドラマでもなく、70mmフィルムで撮り続けているポール・トーマス・アンダーソンやクエンティン・タランティーノのような存在に憧れていましたが、映画作家であるタランティーノに対して『私の場合は他者の物語に興味を惹かれ、そのストーリーにアイデアが思いつく』と語ったマーティン・スコセッシが考えるようなプロセスにも、現在は面白さを感じるようにもなりました。なので、選択肢の中から特定のタイプの作品を排除するようなことはなくなりました。勿論いまでも、挙げた監督たちのように、ノスタルジックな時代物や映画らしい映画を撮ってゆきたいとは思っています。いずれにしても、求められる作品づくりの中で、自分にしかできない表現を追い求めたい。『佐々木、イン、マイマイン』を製作して以降、より広がった感覚です。この作品は青春映画のつもりで走り出したわけではありませんでしたが、多くのかたが青春映画として受け取ってくださった。ですからたとえば、恋愛映画をまだ撮ったことがないので撮ってみたいです。どんなものを生みだせるのか、自分でも気になります」

毎熊「受け取りかたはそれぞれですもんね。ただ役者の場合は特定のイメージがつきやすくて、過去に演じたものと似た役どころをお願いされることがどうしても多いんです。これがけっこう難しいところで、僕としては過去のパフォーマンスをなぞることはしたくないし、、 作品に出会うときは“毎熊克哉”というイメージは排除して、常に新しいチャレンジをしたい。内山監督との現場の“初日”が今日だとして、もし再会/再開できる機会があれば、お互いこれまでとはまったく違うテーマで臨みたいですね」

内山「特定の役者さんに同じような役どころばかりをお願いし、依存してしまうのは、いまの日本の映画界が抱えるひとつの問題点であり弱点だと思います。僕は独学で研究し、映画づくりをしていますが、やはり映画教育は必要なのだと実感しています。アメリカや韓国にはあって、日本にはまだまだ足りていないシステムです。手がけた映画は海外に出していきたいですし、そもそも製作する時点で世界の映画市場に乗っていなければならない。そういったグローバルな感覚を持って、今回とはまた違うかたちで再会できたら嬉しいですね」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。レギュラー出演するNHK大河ドラマ『光る君へ』が毎週日曜20時に放送中。

内山拓也
うちやま たくや|映画監督
1992年5月30日生まれ、新潟県出身。初監督作の長編映画『ヴァニタス』でPFFアワード2016の観客賞、2020年公開の映画『佐々木、イン、マイマイン』は2020年度新藤兼人賞 銀賞、第30回日本映画批評家大賞 新人監督賞、第42回ヨコハマ映画祭 新人監督賞を受賞。そのほかKing Gnu、SixTONESらのMV、短編や広告など様々な映像を手掛ける。現在、フランス、韓国、香港、日本での共同製作映画『若き見知らぬ者たち』を製作中、2024年公開予定。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

『佐々木、イン、マイマイン』
DVD発売中
価格 / ¥3,700(税込)
販売元:アメイジングD.C.
©「佐々木、イン、マイマイン」

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DOKUSOマガジン1月号(vol.28)、1月5日発行!表紙・巻頭は岡山天音、センターインタビューは綱啓永!

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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