祷キララ×外山文治─鍛えあげた先に見据える、面白くて魅力的な大人になること

外山文治

 透き通るように儚くて美しい彼女の印象は、対談を終えた今、いい意味で一変した。カメラを向けると「ジャンプしてみてもいいですか?」とその場を動き回る。屈託のない笑顔と澄まし顔がクルクル変わっていく。祷キララ、23歳。現在、話題作に次々と出演する彼女との対談が実現した。

 「心に影があってクールなイメージは、みんなが作ってくれたものです。でもここからは私がそれを壊していきたい。髪も重たいし声も低いからライトな役柄は少ないけど、アクションのヒロインもしたいし、舞踏とか音楽とか、セリフ以外の身体的な表現にも惹かれる。自分らしく殻を破っていきたいです」

 彼女は大阪で洋服屋を営む父と演劇を学んできた母のもとで育った。スクリーンデビューは小学校4年生の時、偶然知り合った映画監督に「映画に出たい」とお願いすると「祈キララ」役を作ってくれたという。その作品を見た別の関係者がまた彼女に出演を依頼し、そうして彼女の日常生活に「芝居をする」という行事が増えていった。上京して本格的に俳優を始めた彼女はその醸し出す独特の雰囲気で徐々に頭角を現していったが、『サマーフィルムにのって』で等身大に近い明るくて快活な役柄に出会えたことが自分自身を表現する可能性の幅を広げる転機となったのだそうだ。

「自分が出演した作品はどれも全部面白くて、それは幸せなことだと思います。だけど安心している感じはしない。もっともっと面白くしていきたい。だから舞台も映画もベストを尽くしながら、どこか自分のことをトレーニングしている感覚があります」

 芝居をやる意味はまだ俯瞰して考えられないという。それでも漠然とはできない仕事だからこそ彼女のトレーニングの日々は続いていく。鍛えあげた先に見据えるのは30代、40代で面白い人間になることだそうだ。人間性が滲み出るのが俳優だからこそ面白い人間になりたいのだと彼女は微笑む。

「結局、負けず嫌いなんですよね。自分がやりたかった役を見ると悔しくなります。私の方が面白い。面白くしたい。今は届かなくても10年後、私の方が面白いに決まっている。そんな風に考えてしまいます。大好きな桃井かおりさんが私と同世代の頃に出演された作品を見ると嫉妬を超えて途方もない気持ちになる」

 時代のせいにしてはいけないが低体温な若手俳優が増え続ける中にあって、悔しさを隠さず本音を惜しげもなく晒す彼女の愛くるしさにクリエイターたちが惹かれるのも頷ける気がする。

 オフの日はヨガに行ったり鍛えたり、自分の身体と向き合っている。これまでは言葉をどう届けるべきか、セリフをどう表現するかに意識が向いていたが、身体そのもので表現することを大事に思うようになった。田中泯や森山未來の研ぎ澄まされた身体表現に憧れを抱き、今は身体の感覚を磨いている。

 すべては、いつか面白くて魅力的な大人になるために──。

 だが彼女は気づいているだろうか。明日を夢みて鍛錬を積み、足掻き続ける現在の彼女自身がすでにキラキラと輝いていることを。綺羅星のような人間になってほしいと両親が願いを込めて名付けた祷キララは、今、映画の世界で鮮やかな光りを放っている。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

祷キララ
いのりきらら|俳優
2000年3月30日生まれ、大阪府出身。2009年に『堀川中立売』でスクリーンデビュー。主演を務めた『Dressing Up』にて第14回TAMA NEW WAVE ベスト女優賞を受賞。数々のドラマ・舞台に出演、短編映画で主演を務める。主な出演作に『左様なら』、『アイネクライネナハトムジーク』、『サマーフィルムにのって』、『忌怪島/きかいじま』など。メインキャストとして出演する『4つの出鱈目と幽霊について』が2023年12月1日公開予定。また、2024年2月4日から出演する舞台パルコ・プロデュース2024『最高の家出』が紀伊國屋ホールにて上演予定(他、地方公演あり)。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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