内山さんの作品は、登場人物同士のあの距離感が好きなんですよね──毎熊克哉

とにかく同じ時間を共有することを大切にしていました──内山拓也監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀（TOKYO LOGIC）

毎熊「今回は『佐々木、イン、マイマイン』（以下、『佐々木』）などの内山拓也監督をゲストにお招きしています。『佐々木』の試写会に行った際にお見かけはしましたが、お話をするのはこれが初めて。好きな映画は何かと聞かれときに、そのうちの一本として『佐々木』をよく挙げるんですよ。試写会の帰りの道中、すごく気分が良かったことを覚えていてます。その前作『ヴァニタス』もそうですが、登場人物同士のあの距離感が好きなんですよね。ずっと密着しているわけじゃないけれど、切れもしない。僕自身はあんな関係を結んだことがないので、羨ましいんです」

内山「実際にああいった人間関係を経験しているかというと、そういうわけではありません。ただ、どこかあの感覚は知っていて、忘れずに持っています。やっぱり友人同士だとはいえ、それぞれに隠している部分はあるはずですし、きっと僕も自分のすべてを見せられるわけじゃない。何でも知っているから本当の友人なのだとは思いません。この感覚をつねに持っています。『佐々木』に関しては、あの4人に僕を加えた5人組で、とにかく同じ時間を共有することを大切にしていました。作品のための時間以外にも、一緒にご飯を食べたり、ドライブをしたり。だからこそ、あのような空気感の漂う画を撮れたのかもしれません」

毎熊「細川岳さんとの共同での脚本づくりにはじまり、役者との関係性を育みながら、長い時間をかけて撮ったと。大変でしょうけども、贅沢な時間のかけ方ですよね。内山さんは、とにかくいろんな映画を観て独学で映画づくりを学んだそうですが、映画の学校に通った身としても現場で実践してみるのが一番だと思っています。メソッドも大切ですが、自分のやり方を手探りで見つけるのもすごく大切。来年公開の最新作『若き見知らぬ者たち』にはどのようなアプローチで臨んだのですか？」

内山「『佐々木』の場合はとにかく準備に時間をかけて、それが結果として功を奏したのかもしれません。でも、どんなに時間をかけても掴めないものがあるのだと、ある種あのやり方の限界も感じました。映画に焼き付けられたものもあれば、どうしても描ききれなかったものもある。だから今回は、あえて前回とは真逆のアプローチで臨んでみたんです。たとえば、脚本の読み合わせやリハーサルは行なわず、撮影時にはほとんど段取りもせず、テストもしない。つまり、鮮度を重視し、感じたものを大切にする。そうすると照明や録音、特にカメラマンが大変なので、そこは入念な打ち合わせをしました。スリリングな現場をみんな楽しんでいたようでしたし、僕自身もこの挑戦に意義を感じていました」

毎熊「それはいち役者からしても、映画の現場におけるもっとも難しくて面白いところだと思います。監督によって方法論は異なりますから、このお話は興味深いですね。でも、おそらく目標地点は同じなのに、微妙にズレてしまうことってありますよね。一緒に北を目指して進んでいるはずなのに、どうしてもズレが生じてしまう。内山さんの作品は画角が美しいと感じているのですが、どんな擦り合わせ方をしているのか気になります」

内山「北に向かいたい場合、技術スタッフの方々には厳密に伝えます。でも役者さんに対してそういった話はしないですね。それよりも、向かうべき先が見えないし、行き着いたところに何があるのかも分からないけれど、“とにかく一緒に進んでみたい”と伝えます。ゴールは僕にも分からない。だから先導することもできない。でも一緒に歩くことはできます。そして行き着いた先にある景色を一緒に見たい。事前に決まった正解はないと思っているので、僕が監督としてできるのはそういうことかなと。なのでいくらリハーサルをしないとはいえ、対話によるコミュニケーションは欠かせませんね」

毎熊克哉
まいぐまかつや｜俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。レギュラー出演するドラマ『セクシー田中さん』（日本テレビ系）が毎週日曜22時30分より放送中。

内山拓也
うちやま たくや｜映画監督
1992年5月30日生まれ、新潟県出身。初監督作の長編映画『ヴァニタス』でPFFアワード2016の観客賞、2020年公開の映画『佐々木、イン、マイマイン』は2020年度新藤兼人賞 銀賞、第30回日本映画批評家大賞 新人監督賞、第42回ヨコハマ映画祭 新人監督賞を受賞。そのほかKing Gnu、SixTONESらのMV、短編や広告など様々な映像を手掛ける。現在、フランス、韓国、香港、日本での共同製作映画『若き見知らぬ者たち』を製作中、2024年公開予定。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

『佐々木、イン、マイマイン』
DVD発売中
価格 / ¥3,700（税込）
販売元：アメイジングD.C.
©「佐々木、イン、マイマイン」

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