あらゆる不思議な縁に想いを巡らせるー映画『少女邂逅』【根矢涼香のひねくれ徘徊記 第27回】 2023.12.15
「人が一生のうち、何らかの接点を持つ人と出会う確率、24万分の1。
そのうち友人と出会える、確率2億4千万分の1。
そして、親友と出会える確率は、24億分の1らしい」
枝優花監督の『少女邂逅』は、この言葉から始まる。偶然の出会いからいつの間にか濃い付き合いになっているような、あらゆる不思議な縁に想いを巡らせるとき、私はこの冒頭を思い出す。
邂逅ーー思いがけない巡り合い。日々のいじめを受け、いつしか声が出なくなってしまったミユリ(穂志もえか)。そんなミユリの唯一の友達は、森で出会った一匹の蚕だった。蚕に名前をつけて箱の中で大切に飼っていたが、いじめっ子の清水(土山茜)にその存在がバレて、目の前で蚕を捨てられてしまう。再び絶望するミユリ。そんなある日、ミユリの学校に、亡くなった蚕と同じ名前を持つ「富田紬」という少女(モトーラ世理奈)が転校してくる。
死んだように生きていたミユリの前に現れた、美しい少女・紬。「私が君の価値、見つける」。パタパタと、雨の音が森の木々を叩き、ふたりを包み込む。幻想と現実が度々入り混じっていく。どちらでもいいのかもしれない。脆い心を守りながら過ごす10代の毎日は、突如救世主が登場して、本当に世界の色が変わってしまう。悪魔だって当たり前に現れる。ミユリの事を「きみ」と呼ぶ紬の言葉は、時折スクリーンを越えて、ひとりの誰かに問いかける。
爽やかに描かれがちな高校時代だけど、実際は何色をしていただろうか。かつて少女であった頃を思い出そうとしても、苦い記憶の周りには靄がかかり、いつか見た夢のような心地さえする。青春と呼ばれる時代の青さは、キラキラ映画にあるような空の青ではなくて、まだ熟れていない心身の青さだと思う。なんとなく、この映画を通しての景色も、自分が制服を着ていた数年間も、なんともいえない曇り空が記憶に残っている。枝監督の実体験を元に紡がれたこの物語に共鳴しながら、当時枝さんが歩いたであろう田んぼ道や町中を、一緒に歩き直していくような日々。自分の痛みばかりが見えてしまって、隣のあの子の痛みは見えにくい。昨日まで隣で歩いていた横顔が、いきなり怖く、遠くに感じてしまうこともある。友を傷つけたことも、友に傷ついたことも、沢山あった。無意識にも、きっと意図的にも。自分の手にしたいものを手にしているようにみえて、温めようとつないだ手が、いつの間にか諸刃の刃になっている。綺麗な感情だけで学生生活を過ごしていた人を、見つける方が難しい。少なくともそうできていたら、この業界に来ていないし、この映画との出会いも無ければ、今の自分も無かったように思う。どんな形であれ、自分にしかない少女時代を大切にしてあげたいと思った。
映画で出会った皆とは、頻繁にこそ会えないものの、映画館や催しで再会を果たせたり、スクリーンのクレジットで名前を見つけたり、元気だろうかと気になってSNSを覗いたりしている。この仕事をしていて嬉しいことは、かつて悩みながらも奮闘した仲間と、それぞれに歩んだ先で交差できることだ。だいぶ前になるが、映画のお客様や若いスタッフさんで、「学生の時に『少女邂逅』を観て映画の世界を目指しました」という声が幾つかあった。撮影していたのは今から6年前の2017年。当時20代前半だったスタッフ・キャストも、30代の山に到達しようとしている。そんなに時間が経ったのかという驚き。多感な学生時代に出会った映画が人生を変えてしまう可能性を十分に持っていることは、身をもって知っているけれど、自分たちが関わってきた映画も当然その役割を果たし得るのだと、とても感慨深い気持ちになった。まるで自分が映っていると思わせるような、孤独に寄り添ってくれる映画。世代を超えて更新されていきながらも、永遠のお守りとして映画史に並んでゆく。
この映画が、12月17日(日)に横浜シネマ・ジャック&ベティで、1日限定で上映される。第4回目を迎える<ミニシアター地域交流上映会>。各地域の劇場支配人が地元を代表する作品をお互いの映画館で上映し合い、作品ゆかりのゲストを迎えてミニシアターを盛り上げて行くことを目指した、ご当地映画+映画館の交換留学とも言える素敵なイベントなのである。枝監督の故郷である群馬県高崎市で撮影された本作は、シネマテークたかさきを飛び出して横浜へ。上映当日は支配人の小林栄子さん、枝監督と共に、出演者である私もトークに参加する予定だ。
『少女邂逅』
Blu-ray:¥6,380(税込)
DVD:¥4,180(税込)
発売元・販売元: ポニーキャニオン
©2017「少女邂逅」フィルムパートナーズ
根矢涼香
ねやりょうか|俳優
1994年生まれ。『少女邂逅』出演当時はフィルムカメラに夢中で、撮影の合間に主演二人をポジフィルムで撮影したものを、枝さんが気に入ってくれてポスターになった。ここから写真のお仕事が少しずつ頂けるようになった、大切な一枚だ。
文 / 根矢涼香 撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC)
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」12月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン12月号(vol.27)、12月5日発行!表紙・巻頭は上野樹里、センターインタビューは唐田えりか×芋生悠!
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1994年9月5日、茨城県東茨城郡茨城町という使命とも呪いとも言える田舎町に生まれる。近作に入江悠監督『シュシュシュの娘』、野本梢監督『愛のくだらない』などがある。石を集めている。