毎熊克哉×真利子哲也監督 後編ー俳優と監督が考える“暴力”

毎熊克哉

真利子さん次の大勝負の局面で仲間に入れてほしいです──毎熊克哉

こういう会話の機会を経たうえで一緒にお仕事ができると嬉しいですね──真利子哲也監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC)

毎熊「真利子監督との対談の後編です。『宮本から君へ』はドラマからスタートし、映画では主人公にとって非常に辛く苦しいことが起きて、それが物語の展開につながっていきました。ここで描かれているのも、理不尽な暴力。映画『イエローキッド』もそうですが、真利子さんの作品には必ずといっていいほど暴力が出てきますよね。今日の対談でひとつだけ準備してきた質問があるんですけど、作品は関係なく、真利子さんご自身にとって“暴力”とは何なのでしょうか?」

真利子「そうですね……かなり複雑なものだと思っています。肯定することは絶対にできませんし、僕自身も暴力を振るうことはしたくない。けれどもやっぱり生きていて、それが確実に自分の中にも存在していることを理解するようになりました。映画業界でもハラスメントの問題はあとを絶ちませんよね。自分が加害者側に立つようなことが絶対に起きないよう注意していますが、でも映画作りの現場において僕が監督である以上、そこには何らかのかたちの暴力性が内在している。年齢も重ねて他者と接するうえで、このことを強く意識するようになりました」

毎熊「自分の中に暴力が存在することを自覚するのはとても大事なことかもしませんね。僕も暴力的な役を演じた時に“すごく危ないものを持っている“と自覚しました。それまでは自分のことを常識的で優しい人間だと思っていたんですけど、今思えばそっちの方が危ないです(笑)。自分が持ってる凶器に気づいていない方が。僕は俳優なので、作品のために必要な時だけ扱えるように意識しています」

真利子「若いうちや駆け出しのうちは、“若いから”といって許される感じがどこかあると思うんですよね。でも年齢や経験を重ねたり立場が変わってくると、それはどんどん許されなくなってくる。当然ですよね。俳優さんとじっくりお話しする機会がないと前編でも言いましたが、こうして認識を共有できるのはいいですね。映画の中で見せる演技からだけじゃ分からないことが多すぎますから。こういう機会を経たうえで一緒にお仕事ができると嬉しいですね」

毎熊「僕自身は現場に参加する際、ほとんど監督と話さないこともあれば、丁寧に言葉を交わして臨む場合もあります。これはいわゆる相性の話なのかなと。監督だけでなく共演者ともそうで、会話をせずともうまくいく現場もありますからね。真利子さんは一つひとつの映画にすごく手間をかけて作る監督ですから、毎作品が大勝負だと思います。次の大勝負の局面というか、真利子作品に対する世間のイメージを覆すかもしれない映画に出会ったとき、僕も仲間に入れてほしいです。そのときはぜひ、たくさん会話をして取り組めたら」

真利子「何かの作品内で演じたキャラクターのイメージだけでなく、普段はどんな人なのかを知ったうえでの映画作りができたらいいなと思っています。『ディストラクション・ベイビーズ』はまさにそうでした。『宮本から君へ』はドラマから映画へと展開していく中で、やはり会話を重ねて俳優さんの人となりに触れることができた。毎熊さんも特定の作品で演じた役のイメージで見られることが多いと思うのですが、こうして話しているといろんな一面が見えてくる。映画作りにおいて俳優・毎熊克哉のまったく新しい一面が引き出せそうなとき、ぜひご一緒したいですね」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。レギュラー出演するドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)が毎週日曜22時30分より放送中。

真利子哲也
まりこてつや|映画監督
1981年7月12日生まれ、東京都出身。2016年に『ディストラクション・ベイビーズ』で商業映画デビューし、第69回ロカルノ国際映画祭最優秀新進監督賞や第38回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。2018年にテレビドラマ化された『宮本から君へ』の脚本・演出を手がけ、監督を務めた2019年公開の映画版では第62回ブルーリボン賞、第32回日刊スポーツ映画大賞、第34回高崎映画祭で監督賞を受賞。第36回東京国際映画祭の「TIFFティーンズ映画教室 2023」で特別講師を務める。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

『ディストラクション・ベイビーズ』
DVD&Blu-ray発売中
価格 / DVD:5,170円(税込)
   Blu-ray:6,160円(税込)
発売・販売元 / 松竹
©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

『宮本から君へ』
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価格 / DVD:¥15,400(税込)
   Blu-ray:¥18,700(税込)
販売元 / ポニーキャニオン
©「宮本から君へ」製作委員会

映画『宮本から君へ』
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価格 / DVD:¥4,180(税込)
   Blu-ray:¥5,280(税込)
発売・販売元 / 株式会社KADOKAWA
©2019「宮本から君へ」製作委員会

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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