若葉竜也「大きな経験であり財産です」 『愛にイナズマ』インタビュー

DOKUSOマガジン編集部

松岡茉優と窪田正孝を主演に迎え、石井裕也監督が手がけた最新作『愛にイナズマ』。コロナ禍の現代を舞台に、理不尽な社会に打ちのめされた男女が、10年ぶりに再会した家族の力を借りて反撃を試みる作品だ。社会の“いま”に対する切実な想いに溢れた本作について、折村家の次兄・雄二を演じた若葉竜也に語ってもらった。

“いま”にきちんと向き合った作品に参加したい

──折村家の次兄・雄二役に決まった際の心境を教えてください。

若葉「読んでいて圧倒されるようなエネルギーがほとばしっているのを感じて、お受けする以外の選択肢はありませんでした。出演を決める際には自分がどんな役かよりも、その作品に出演するにあたって自分の持っているものを全てぶつけられるか? という観点が大きいので、そういう意味でも出演一択でした」

──雄二というキャラクターは折村家の一員であり、彼をどう表現するのか以上に、ほかの登場人物とのバランスが重要なのではないかと感じました。どのようにして雄二像を立ち上げていったのでしょうか?

若葉「折村家の面々を演じるみなさんとは“はじめまして”の状態でスタートしたこともあって、家族内における雄二のポジションを頭で考えて現場に持っていくことよりも、シーンを一つひとつ重ねるごとに見えてきたもののほうが大きいように思います。撮影を重ねれば重ねるほどに現場が熱を帯びるので、それを肌で感じることによって的確なポジションを掴めた感覚がありますね。なのでやはりすべては現場だと思います。撮影を重ねるうちに、同じ空間で同じ時間を共有していくうちに、この独特な家族像が生まれていったんです」

──まさしく折村家のように、バラバラな状態からしだいに一つにまとまっていったのですね。

若葉「ええ、まさしく。この映画は折村家の面々が再会するところから大きく動き出します。疎遠だったみんなはまず大喧嘩を繰り広げるのですが、“折村家パート”の撮影はここからスタートしました。雄二は控えめな人物なので、行動的な兄の誠一を演じる池松(壮亮)くんにまずはついていこうと思いましたね。果たして兄ちゃんがどう出るのか。その出方によって弟の在り方も変わってくるはず。この兄弟の構図を大切にできれば間違いないなと。ここを入口にして、どんどん広げていければと考えていました」

──主演のお二人をはじめ、佐藤浩市さん、池松壮亮さんたちとの演技合戦に非常に魅せられました。ご自身としてはいかがでしたか?

若葉「かなり興奮しましたね。石井さんでさえ緊張していたそうです。演じていて思いがけないところでつい声が大きくなってしまったり、役者としてボルテージが上がったというよりも、生き物として変化していくというか。理屈じゃない、説明のつかないものが自分の中から出てくるんです。“何であんなに大きな声を出したんだろう?”、“なぜあんな顔をしたんだろう?”と自分でも不思議な瞬間がたくさんありました。佐藤浩市さんともはじめてご一緒させていただいたのですが、いち役者としてあの距離で演じる背中を見ることができたのは大きな経験であり財産です」

──共演者のみなさんとはどれくらいの距離感で接していたのですか?

若葉「そんなに会話をした記憶はありません。やっぱり無言のうちに分かち合える瞬間を共有したほうが、言葉を介したコミュニケーションよりも遥かに距離が縮まる感覚があるんです。いつからか、“昨日は何を食べたんだろう?”みたいなことが気になるようになってくるのですが、それってつまりはみんなを好きになっているということだと思うんです。家族の愛を演技で築き上げている側面はもちろんありますが、この映画に携わる人間同士の愛情が演技にも反映されていると思います」

──だからこそ、思いがけず大きな声が出たりもするのでしょうね。

若葉「自然発生的なものを大切にしたいと考えていました。雄二はキリスト教を信仰していて、それが生きるうえでの鎮痛剤のような役割も果たしていますが、信仰によって抑え込んでしまっている感情や言葉もあります。彼はいろんなものを隠して生きている人物でもあるので、家族とのぶつかり合いによってあらゆるものが剥がれ落ちたとき、理屈じゃない何かが表れたらいいなと思っていましたね」

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『愛にイナズマ』
監督・脚本 / 石井裕也
出演 / 松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉⻯也、仲野太賀、趣⾥、⾼良健吾、MEGUMI、三浦貴⼤、芹澤興⼈、笠原秀幸、鶴⾒⾠吾、北村有起哉、中野英雄、益岡徹、佐藤浩市
公開 / 10月27日(金)より全国公開
©2023「愛にイナズマ」製作委員会

長年の夢だった映画監督デビュー目前で、すべてを奪われた花子(松岡茉優)。イナズマが轟く中、反撃を誓った花子は、運命的に出会った恋人の正夫(窪田正孝)と共に、10年以上音信不通だった家族のもとを訪れる。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、花子の反撃の物語は思いもよらない方向に進んでいく……。

若葉竜也
わかばりゅうや|俳優
1989年6月10日 東京都⽣まれ。2016年に『葛城事件』で第8回TAMA映画賞の最優秀新進男優賞を受賞。近年の出演作にNHK朝ドラ『おちょやん』、映画『街の上で』、『前科者』など。2023年は映画『愛にイナズマ』、『市子』、2024年に主演映画『ペナルティループ』の公開が控える。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / タケダ トシオ (MILD) ヘアメイク / FUJIU JIMI
衣装 / トップス:08sircus、パンツ:NEONSIGN、シューズ:PEDALA

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」10月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン10月号(vol.25)、10月5日発行!表紙・巻頭は若葉竜也、センターインタビューは北香那!

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