毎熊克哉×真利子哲也監督 前編ーアクションシーンにおける力の反動

毎熊克哉

真利子さんの作品のアクションには、力の反動が生々しく感じられます──毎熊克哉

演者としては殴られる側のほうが圧倒的に大変なはずなんです──真利子哲也監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)

毎熊「今回は映画監督の真利子哲也さんをゲストとしてお迎えしています。真利子さんの映画との出会いは、テアトル新宿で観た『ディストラクション・ベイビーズ』でした。その後の『宮本から君へ』も衝撃的で。映画を観ているだけだと、いったいどんな方なのかまったく分からない。いや、怖い人なのだというイメージは少しありましたね。でも改めて映画を観てみると、劇中で描かれていることとは対照的に、その作りに対してすごく理性的な印象があって。ぜひお話ししてみたいなと思ったんです」

真利子「嬉しいですね。たくさんの本数の映画を撮ってきたわけではないので。でも僕も毎熊さんに対しては怖そうなイメージを抱いていましたよ(笑)。最初に観たのが『ケンとカズ』でしたから。その後もいろんな作品で見かけるたびに、いい俳優さんだとずっと気になる存在でした。なので、こうしてお話しできる機会をいただけてすごく嬉しい。俳優さんとじっくり話せる機会はほとんどありませんからね」

毎熊「『ディストラクション・ベイビーズ』も『ケンとカズ』も同じ2016年の公開ですよね。この二作は“暴力”を描いているという共通点があることもあってか、個人的にとても印象に残っているんです。アクションシーンってあくまでも当てているように見えるだけで、実際には当たっていませんよね。でも真利子さんの作品のアクションには、力をうまくどこかに逃すのではなく、力がそのままはね返っているような生々しさがある。つまり、殴ったときに生じる力の反動が感じられるわけです。殴られてる側の痛みはもちろん、殴ってる側の痛みも伝わってくるんですよね」

真利子「カットを割って、痛さを見せない映画もありますよね。でも僕はその瞬間こそを捉えたい。だから殴られる側のほうに意識を向けていました。実際には当たっていないにも関わらず、イメージだけでリアクションを取るのって、すごく難しいはずなんですよね。だから出演者の方々にはYouTubeにあった路上の喧嘩の映像などを観て研究していただきました。アクションは何度も練習してカメラワークなどによる演出でうまく見せられるんですけど、演者としては殴られる側のほうが圧倒的に大変なはずなんです」

毎熊「いっぱい殴られるシーンがある日だと、その翌日は筋肉痛になりますね。首が動かなくなったり……。『ディストラクション・ベイビーズ』はケンカに明け暮れる主人公を演じる柳楽優弥さんがヤバすぎて。人間のあの領域のヤバさはなかなか見れません。あの主人公は他者に対して突然暴力を振るうわけですが、その理由は描いていませんよね。でもそもそも、ああいった理不尽な暴力というものは実際に存在するし、人が何か発言したり行動したりするすべてに理由があるわけではない。真利子さんの作品は理屈ではなく、人間が根本的に持っている欲望や不安定さを描いているところが魅力の一つだと思うんです」

『ディストラクション・ベイビーズ』©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

真利子「脚本を書いていると、各キャラクターの言動の理由を求められることが多々あります。当然ながらあの主人公が暴力を振るう原因は何なのだろうかということにもなる。たとえば、“小さい頃に不幸があったその反動で”だとか、理由を作ることはいくらでもできます。でもそれが嫌だった。それだと彼の生き方のすべてが幼少期の経験に回収されてしまいますから。映画の舞台になっている愛媛・松山では喧嘩神輿があり、劇中にも収められていますが、地元の男たちが神輿をぶつけ合うのは圧倒的な凄みがありました。年に一度のお祭りだけは無礼講で威勢よく叫び、ぶつけ合う。理屈ではなく誰もが生まれ持っている暴力性の発露として主人公の生き方を描きたかったんです」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。レギュラー出演するドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)が10月22日より放送予定。

真利子哲也
まりこてつや|映画監督
1981年7月12日生まれ、東京都出身。2016年に『ディストラクション・ベイビーズ』で商業映画デビューし、第69回ロカルノ国際映画祭最優秀新進監督賞や第38回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。2018年にテレビドラマ化された『宮本から君へ』の脚本・演出を手がけ、監督を務めた2019年公開の映画版では第62回ブルーリボン賞、第32回日刊スポーツ映画大賞、第34回高崎映画祭で監督賞を受賞。第36回東京国際映画祭の「TIFFティーンズ映画教室 2023」で特別講師を務める。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

『ディストラクション・ベイビーズ』
DVD&Blu-ray発売中
価格 / DVD:5,170円(税込)
   Blu-ray:6,160円(税込)
発売・販売元 / 松竹
©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

『宮本から君へ』
DVD&Blu-ray発売中
価格 / DVD:¥15,400(税込)
   Blu-ray:¥18,700(税込)
販売元 / ポニーキャニオン
©「宮本から君へ」製作委員会

映画『宮本から君へ』
DVD&Blu-ray発売中
価格 / DVD:¥4,180(税込)
   Blu-ray:¥5,280(税込)
発売・販売元 / 株式会社KADOKAWA
©2019「宮本から君へ」製作委員会

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」10月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン10月号(vol.25)、10月5日発行!表紙・巻頭は若葉竜也、センターインタビューは北香那!

お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING