若き映画人のために開かれたミニシアター「下北沢トリウッド」 ー ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょうwith花柳のぞみ

ミヤザキタケル
花柳のぞみ

映画アドバイザー・ミヤザキタケルさんが、俳優・花柳のぞみさんと一緒に全国津々浦々のミニシアターを巡り、各劇場の魅力や推しポイントをお届けします。目指すは全国のミニシアター制覇♪

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今回は、サブカルチャーの聖地・下北沢で独自の色彩を放つミニシアター「下北沢トリウッド」にお伺いしました。

 故郷・長野市を離れて早18年。長いこと東京の土地で暮らしていると、同郷の人に巡り会えただけで嬉しくなる。ましてやそれが映画人であったのならばなおのこと……。これまでにも、塚田万理奈監督、岨手由貴子監督ら同郷の監督たちとの嬉しい出会いがあったのだが、今回訪れた映画館においても同様の出会いに恵まれた。演劇・音楽・古着など、昔からサブカルチャーの聖地として若者に親しまれてきた下北沢駅から徒歩約5分、東京に数多ある映画館の中でも独自の色彩を放つミニシアター「下北沢トリウッド」である。

 海外の大学で映画ビジネスについて学び、帰国後に映画の専門学校で講師を務めていた大槻貴宏さん(専門学校時代の教え子には、なんと𠮷田恵輔監督や深川栄洋監督が)。音楽を志す若者にライブハウスという場があるように、若き映画人にも自分の作品を発表する場や興行的な側面を経験できる場があるべきだと奥さまと共に考え、1999年12月に立ち上げたのが下北沢トリウッド。その名称は「ボンベイならボリウッド、東京ならトリウッドになる」という関根勤さんのTVでの発言に由来しており、関根さんの所属事務所に許可を得た上で命名。オープン時には関根さんから花を贈られたとか。当初は短編映画を上映する専門の映画館として幕を開け、数多くの作品が上映。その中には、今では日本を代表するアニメーション監督となった新海誠監督の姿もあり、初期作品『彼女と彼女の猫』や、商業デビュー作『ほしのこえ』がトリウッドにて初上映された。それ故、ファンの間では「新海作品の聖地」と呼ばれており、トリウッドなくして今の新海監督はなかったかもしれない。また、時代がフィルムからデジタルへと移行していく過程において映画製作のハードルも下がり、長編に挑む映画人が増えたことから、短編専門の方針を転換。現在では厳選された国内外の長編作品を上映しつつ、若手や新人の作品、アニメーション作品なども精力的に上映している(劇場のロゴに「Theater for short films」の表記があるのは短編専門時代の名残)。

 劇場の座席数は45席、2021年には上映設備がリニューアルされDCPを導入。スクリーンサイズも3380w×1500hと大きくなった。中でも目を引くのは、“黄色い”座席。支配人の奥さまがデザインを手掛け、九州にあるメーカーに製造から依頼した特注品。海外も含めて色々な映画館を見ても黄色い座席というのは珍しく、何故黄色にしたのかを伺うと、劇場設備関係者の「悲しい映画を見て、ふと黄色が目に入ったら嫌なだけなんじゃないかな」という言葉が逆に決め手になったとのこと。鑑賞に支障を来すようであればやめようと思っていたものの、そのようなこともなく、結果としてトリウッドを象徴するアイコンとなり、今ではそのポップさからファッション雑誌の撮影で使われることも多いのだとか。ロビー内には限られた空間ながらもフライヤーコーナーや自動販売機が設置されており、混雑緩和のため作品評はQRコードで読み取れるよう工夫がなされている。下北沢というおしゃれなカフェや古着屋が多数ある街の特性上、上映開始時間が近づくまで近隣を散策するのが正しいトリウッドの利用の仕方かもしれない。

 冒頭で匂わせた通り、大槻支配人と僕は同じ長野県長野市出身。長野市にあるミニシアター「長野相生座・ロキシー」の田上支配人から5年程前に大槻支配人のお名前は聞いていたものの、直接お会いする機会には恵まれず、今回満を持しての対面となった。そんな大槻支配人にはプロデューサーとしての顔もあり、異例の拡大公開で話題となった『リバー、流れないでよ』や、同チームによって作られた『ドロステのはてで僕ら』などを手掛けている。トリウッドでは引き続きロングラン上映中のため、まだ未見だという方はプロデューサーに直接話を聞けるかもしれないトリウッドで鑑賞するのは如何でしょう。

 再開発によって近年大きく形を変えた街・下北沢。2021年1月には新たなミニシアター「シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』」がオープン。目まぐるしく変化していく下北沢について大槻支配人に話を伺うと、「街が活気づくのはとても良いことだし、僕は競争相手がいる方が面白い。お客さまを取られるという心配の声もありますが、そうなったらこっちのやり方が悪かっただけのこと。今のところどちらにも需要があるし、お客さまの母数が増えるということは圧倒的に良いこと。気づけば下北沢で24年と古いお店になってしまったので、面倒くさい人にならないよう気を付けたい。変わっていくことは何事も素晴らしいことだと思います」と、時代の変化に合わせアップデートしていくことを怠らない真摯な姿勢と、素敵な笑顔と共に回答をいただいた。都内にお住まいの方はもちろんのこと、他県にお住まいの方も、東京は下北沢へお越しの際は、是非一度下北沢トリウッドへ足を運んでみてください。それでは、次のミニシアターでまたお会いしましょう♪

花柳のぞみ

ここからは、花柳のぞみが「シネクイント」の見逃せないところをご紹介します。題して「はなやぎのビビッとポイント!」

1. 入ってパッと目につくイエロー!思わず可愛い〜!と声が出ました。この座席は支配人の奥さまが発案したのだとか!ポップな座席にウキウキしちゃいます♩

2. 館内では赤がよく目につきます。赤のゴミ箱、赤のライト、赤の棚etc…。イエローといい、赤といい、カラフルでポップな世界観が魅力的なトリウッドです!

3. トリウッドと「秘密結社 鷹の爪」のコラボグッズです。鷹の爪団のメンバーがトリウッドの座席に座っている!観劇のお土産にぜひ♪

4. 出口にカエルさん。「お客さまがまた帰ってくるように」と願いを込めてカエルなんですって。

ミヤザキタケル
みやざきたける|映画アドバイザー
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweet・PHILE WEBでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。

花柳のぞみ
はなやぎのぞみ|俳優
1995年、秋田県出身。趣味は、カメラとおさんぽ。主な出演作に映画『人狼 デスゲームの運営人』メインキャスト・姫菜役、YouTubeドラマ、TOKYO MX「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」保田紘子役。現在、「NURO モバイル」web CMに出演中。

記事内写真 / 花柳のぞみ
文 / ミヤザキタケル

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」10月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン10月号(vol.25)、10月5日発行!表紙・巻頭は若葉竜也、センターインタビューは北香那!

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ミヤザキ タケル 映画アドバイザー

1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweetでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。

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