林裕太×外山文治─心の奥底にあった自己表現の渇望

外山文治

 若き俳優は夜明け前の青色だ。限りある僅かな時間に限りない光を放つ。未成熟さ、不確かさもすべて「無限の可能性」として彼らを包む。林裕太さんはそんな若者の持つ刹那の瞬間を鮮やかに表現する。『草の響き』での映画デビューから『間借り屋の恋』『少女は卒業しない』と徐々に頭角を現し、最新作『ロストサマー』では主演を努めている。今回、そんな映画界の注目株との対談が実現した。

 「小学六年生の時に学芸会のお芝居でいい役をもらえたんです。一人で歌う場面があって、それをお母さんたちが褒めてくれました。そこから役者に興味を持った。でもその反面、普通の仕事に就いて家庭を持って過ごす人生もちゃんと思い描いてました。どちらを選ぶか悩んだ時、演劇学科に行けば否応なく選択肢を狭められると考えたのが俳優になったきっかけです」

 10代で芸能界を目指す人間は、良かれ悪しかれ真っ当な人生を歩むことへのアレルギーを持つ者が多い。だが林さんは、真っ当に生きる自分を幼い頃から思い描いていたそうだ。

 「両親の仲が良くて、自分も愛されて育ったから、そういう暮らしへの憧れが強いんです」と照れたように語る彼がそれでも俳優業を選択したのは、心の奥底に自己表現の渇望がずっとあったからだそうだ。

 「そこを隠せないというか。自分の気持ちに言い訳できない生き方の方が自分に誠実だと思った」と笑う。やがて俳優養成所に通い出した彼は、傍らに座るマネージャー曰く、誰よりも目を引く存在となっていく。しかし本人は、全然芝居ができない自分を知れた収穫があったと振り返る。ライバルができ、同じ悩みを共有したり自分よりも貪欲に夢を追いかける人々との出会いが財産になった。

 「活動のターニングポイントになったのは『草の響き』です。デビュー作が一番厳しい現場で、東出昌大さんや大東駿介さんをはじめとする先輩が親身になってくれて、皆さんのような俳優になりたいと思いました。太刀打ちできない現場だったからこそ、もっと頑張りたいと意識が変わっていきました」

 最新作『ロストサマー』では孤独な魂を持つ金髪の青年を好演している。主演の重圧を問えば「あまり感じてないです。これまでに出会った俳優の方々は、どんな役でも作品を良くしようと努力されている方が多くて。だから役柄の大小じゃなくてただ作品に貢献したいと思ってます。現場では一番若かったですが意思表示はしっかりしましたし、出番以外の時間もなるべく現場にいたかった。お互いがお互いを気遣う現場でした」と回顧する。

 今はただ早く大人になりたい。たとえ周囲が求める青さや未熟さという武器が使えなくても、それでも早く大人になりたいともがき続けたい。

 「僕は昔から人にどう思われるかを気にしてしまうタイプで、一歩踏み出せずに悩むことばかりです。でも人に好かれるも嫌われるも、先ずは自分が行動しないと」と抱負を語ってくれた。

 最後に私は彼に座右の名を聞いてみた。

 「『正直』という言葉をモットーにしたいと思います。子供の頃から取り繕うことが多かったからこそ、今は、正直にいたい」

 俳優とは市井の人々の想いを乗せるための器である。だからこそ正直で真っ当な生き方を大切にできる彼に未来を託したい。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

林裕太
はやしゆうた|俳優
2000年11月2日生まれ、東京都出身。2020年に俳優活動をスタートさせ、2021年の映画『草の響き』でスクリーンデビュー。2023年は映画『緑のざわめき』、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-決戦-』、『逃げきれた夢』、『少女は卒業しない』に出演し、主演映画『ロストサマー』が新宿武蔵野館ほかにて公開中。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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