北香那「“私ってこんなに強かったんだ”と思えた」 『春画先生』インタビュー

DOKUSOマガジン編集部

 『月光の囁き』や『害虫』など、先鋭的な作品で多くの映画ファンを魅了してきた塩田明彦監督の最新作『春画先生』。江戸文化の裏の華である「春画」の真の魅力を中心に、春画研究者とその弟子の“愛”をめぐる物語をコミカルに描いた作品だ。本作のヒロイン・春野弓子を演じた北香那は、脚本を読んだ時点で「何としても私が演じたい」と思ったのだという。そんな彼女に本作の魅力について語ってもらった。

ごく新しい純愛の描き方

──本作への出演の経緯を教えてください。

北「オーディションがあると聞いて、まず脚本を読ませていただいたんです。最初は男女のラブストーリー的なものだと思っていたのですが、読み進めていくうちにどんどんとんでもない方向に展開していって(笑)。そこには私の知らない世界が描かれていて、でも、何か惹かれるものがあるのを感じて、もう一度読んでみたんです。そこでようやくこの映画が巻き起こそうとしているイリュージョンに気がつきました。純愛の描き方がすごく新しい。春野弓子というキャラクターにも惚れましたし、何としても私がこの役を演じたいと思いました」

──オーディションを受ける前に二度も読んだのですね。

北「この脚本に異様に惹かれてしまったんです。面食らってしまう展開の連続ですが、自然とこの世界観を受け止めている自分もいました。それに怒涛のクライマックスが用意されていることを知ったうえでもう一度読むと、そこに向かうまでのあちこちにヒントが隠されていることにも気がついたんです。なので二度目は大きく印象が異なりました。ラブストーリーでもあるけれど、これはコメディでもあるなって」

──弓子に惹かれたとのことですが、それはどんなところですか?

北「彼女は真っ直ぐで、とても美しい女性だと感じました。いつも全力なんです。すでに成人して社会のいろんな面を知っているはずだけど、少女性のようなものを持ち続けてもいる。嘘がなくて、好奇心旺盛。自分の心に素直なまま突っ走っていくタイプで、そこが彼女の魅力です。私は年齢を重ねていくにつれ、いつからか自分の感情を抑えて生きるようになりました。でも、かつてはそうじゃなかった(笑)。なので彼女に対して強いシンパシーを感じましたね。私は一度でも欲しいと思ったものはどうにかして手に入れないと気が済まないところや、気の強さみたいなところは幼い頃から変わりません。ここも弓子のキャラクターと重なる部分です。ときおり彼女は驚きの言動をとりますが、私には理解できました」

──“個”を尊重しているところが、彼女の魅力であり本作の魅力だと感じました。演じるうえで特別に意識したことはありますか?

北「表情を意識的に作ることが塩田監督の要望としてありました。俳優業をはじめた頃から基本的に感情は隠すものだと教わってきたので、お芝居の仕方を変えることに悩みました。たとえば、悲しいときに笑うと、もっと悲しそうに見えますよね。でも監督からは感情をそのまま表に出して欲しいと言われたんです。しかも、悲しいときは悲しいと、怒っているときは怒っていると、あからさまに分かるように。この弓子ほど感情をストレートに出す役を演じたことがなかったので不安もありましたが、現場では監督を信じてやっていきました。でもできあがったものを見て、監督の真意がようやく分かりましたし、演技の引き出しが増えたようにも思います」

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『春画先生』
原作・監督・脚本 / 塩田明彦
出演 / 内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実
公開 / 新宿ピカデリーほか公開中
©2023「春画先生」製作委員会

”春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。退屈な日々を過ごしていた春野弓子(北香那)は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村(柄本佑)や、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)の登場で大きな波乱が巻き起こる。それは弓子の“覚醒”のはじまりだった…… 。

北香那
きたかな|俳優
1997年8月23日生まれ、東京都出身。2017年に「バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」(テレビ東京系)ジャスミン役で注目を集める。主な出演作品に、ドラマ「拾われた男 Lost Man Found」(NHK BSプレミアム/ディズニープラス)「ガンニバル」(ディズニープラス)「インフォーマ」(関西テレビ)「東京の雪男」(NHK Eテレ)「口説き文句は決めている」(ひかりTVチャンネル)などがあり、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や「どうする家康」にも出演した。10月13日から公開される映画『春画先生』ではヒロインを演じる。

撮影 / 池村隆司 取材・文 / 折田侑駿

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」10月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン10月号(vol.25)、10月5日発行!表紙・巻頭は若葉竜也、センターインタビューは北香那!

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