青木柚×外山文治─俳優は「仕事」というより自分で選んだ「道」

外山文治

 青木柚は今、最も勢いのある若手俳優のひとりだ。今夏だけでも『神回』『まなみ100%』『Love Will Tear Us Apart』と出演作が続く。初めて私が彼に注目したのは映画『うみべの女の子』で、行き場のない町で「生と性」の狭間でもがく少年を演じていた時のことだった。瑞々しくも閉塞感の漂うその姿は、まさに美化できない思春期の情けない臭いがした。その後も彼は等身大の若者の葛藤を演じる役が続き、いつしか誰もが気になる存在になった。

「一時期の自分は線が細く、脆く危うく見える『少年性』みたいなものがありました。映画特有の若者の葛藤を描くにあたって、そこを必要として頂いたのだと思います。もちろん当時はそれでよかったけど、自分はそこに執着はないですし、今はもう一つ違う場所に行くための転換期かなと思ってます」

 客観的に自分を振り返る彼と話していると「職業俳優」としての意識が高いことがわかる。それもそのはずで、彼は子供の頃からこの世界に身を置いている。

「物心ついた時から、華やかな世界への憧れがずっとありました。特定の誰かに憧れたわけではなくて、テレビで同じ歳くらいの子が芝居をしているのを見た時に衝動的に自分もやりたいと言いました。今、やろうと思ったんです。『仕事』というより自分で選んだ『道』ですね」

 ご両親は不思議なくらいあっさりと彼の挑戦を許してくれたという。しかし実際にやってみると、求められる正解が分からずに上手くいかないことも多かったそうだ。彼の転機は高校時代に『14の夜』という映画の出演が決まったことだ。

「あの作品が新しい出発点でした。撮影現場では何も知らない分、全てを吸収している状態で楽しかったです。今見てもすごく純粋だなと思います。映画との出会いで変われたと思います」

 スポーツや勉強を人並みにできても突出したものがなかったと振り返る青木柚が選んだ「俳優道」は、思いがけず自分自身と向き合う日々の始まりでもあった。俳優は流されるままに生きてはいけない仕事であり、彼もなりたい自分になるためにひたすら模索する日々を過ごしている。

「作品の評価は気になりますが、他人の視線はあまり気にしません。もちろんマイナスな言葉は多少落ち込みますが、沢山の人がいますから。プラスを言われても、有り難いと思いつつ、自分のあらは自分がよく解っています。だから、なりたい自分に辿り着くまで誠実に一つ一つ積み上げていくだけですね」

 映画『まなみ100%』では変わっていく周囲に焦りを募らせる、いつまでも変われない「僕」を好演している。役と自分自身の共通点について「自分はあそこまでポップな人物ではないです。でも、似てないはずなのに不思議と胸が締め付けられるんです」と振り返ってくれた。

 どこまでも冷静に言葉を発する彼にプライベートを尋ねると「ふざけてばっかりです」と微笑んだ。今は友達に誘われるがまま登山など「体験すること」を大切にしていて、今年中に一人旅に出たいのだという。

 変化を恐れずに突き進む青木柚が「なりたい自分」に近づいた時、彼はきっと日本映画を支える役者になるはずである。22歳、少年性を捨てて大人へと変貌していく青木柚のこれからが楽しみで仕方ない。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国公開中。

青木柚
あおきゆず|俳優
2001年2月4日生まれ、神奈川県出身。2021年の映画『うみべの女の子』で、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞ノミネート。以来、映画『MINAMATA-ミナマタ-』やドラマ「カムカムエヴリバディ」(NHK総合)「モアザンワーズ」(Amazon Prime)「往生際の意味を知れ!」(MBS・TBS)などで活躍する。2023年は映画『なぎさ』『神回』で主演を務め、『Love Will Tear Us Apart』に出演したほか、中村守里とのW主演映画『まなみ100%』の公開、カネコアツシ原作「EVOL」実写化の配信(DMM)が控える。

撮影・文 / 外山文治

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.24)、9月5日発行!表紙・巻頭は井浦新、センターインタビューは門脇麦!

お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING