PFFディレクター 荒木啓子インタビュー 「どこまでも“自分の道を探そうとする人”に出会いたい」

DOKUSOマガジン編集部

 今年で45回目の開催となる“ぴあフィルムフェスティバル”。この映画祭の最大の目玉といえば、新人作家たちによる自主映画のコンペティションである“PFFアワード”だ。これまでにも数多くの才能がここで見出され、映画界へと羽ばたいて行った。今年の“PFFアワード2023”の入選作は22作品。9月9日(土)からの映画祭にて上映されるのと同時に、DOKUSO映画館とUーNEXTにてオンライン配信される。ディレクターの荒木啓子氏にお話をうかがった。

画を作るという行為は脈々と代替不可能な何かになりつつある

──今年も“PFF”の季節がやってきました。この映画祭にはどのような特色がありますか?

荒木「“PFFアワード”に関して言えば、その最大の特色は一切の制限がないということです。1年以内に完成した自主映画であれば、年齢、性別、国籍、上映時間、ジャンルなどの一切を問いません。ここまで制限のない映画祭はどんどん減ってきていると思います。これをなぜ貫いているかというと、それはやはり対象作品が自主映画だから。作り手自身の生理と感覚を大切に、本当に自分の作りたいものを作る。そのためには、こちら側からの制限は出来るだけなくすことが大切なんです」

──たしかに、才能を発揮できるフォーマットというのは人それぞれだと思います。

荒木「才能を見つけるためには、本当は学校教育みたいに同じ課題を出したほうがいいんですよ。同じ脚本を全員が同じような条件下で作ったときに、光るものを持っている人は見つけやすい。でもそんなことはやりたくないんです。私たちは、どこまでも“自分の道を探そうとする人”に出会いたい。しかもそれは千差万別でいいと思います。極端なことを言えば、“PFF”に入選する映画を撮ったからといって、映画の道を進まなくてもいいと思っていますから」

──本当に自分がやりたいことは何なのかを知る機会なのだと。

荒木「映画の道を進んだとしても、その道は人それぞれ。“自分のために映画を作り続ける人”と、“映画のために映画を作り続ける人”とに大きく分けられると私は思います。入選作品は、そんな人生の道のりのスタートラインに立つものだと思うので、10年後や20年後にまったく違うことをしていてもいいと思うんですよね。ただとにかく映画を作ってみることがすごく大事。映画を作ることで他者と関わり、人や物事に対する見方が変わるはず。これっていまや失われかけていることだと思うんです。45回目ともなると応募者の中には三世代目の方がいたりもして、映画を作るという行為は、脈々と続く、他では代替不可能な、人にとって大切な“何か”になりつつあるのを肌で感じています」

──557本の応募作があり、22作品が入選していますね。何か傾向のようなものは感じていますか?

荒木「応募作全体に、うっすら似ている印象がありますね。“自分のやりたいことをやりなさい”という教育が、良くも悪くも発達し過ぎちゃったんじゃないかなと。あまり映画を観ないで作っている気がする。映画が商品として量産される黄金時代、厳然たるジャンルに分けられる映画が無数に存在し、誰もがそういった映画に憧れて映画を撮り始めた時代。たとえば50年代、ゴダールたちの時代のような世界的なニューウェーブ。あの時代の映画といまの映画とでは、映画というものの概念が違うように思います。近年、映画という言葉で想像するものに、ジャンルはなく、作り手が自身のことを語る映画こそが映画なのだという概念に近づきつつあるなと」

──その印象はたしかにあるかもしれません。

荒木「“自分語り”の枠を越えてこそ映画は面白い。いまの時代は多くの人が映画を学びに学校へ行きますよね。そこで“自分のやりたいことをやりなさい”という考えばかりを推し進めると、自分でもできるものを探して、同じ環境のひとの映画を多く観るようになる。すると当然ながら映画の概念は変わるし、商業映画やジャンル映画は別世界になる。映画作りに取り組む人それぞれに、何かしらの映画に感動したという原初的な体験があるはずなんです。映画を作りたい人が、普段から映画のどこを見ているのかがもっとも大事なこととして問われる時代が来たと思います」

──映画祭でのスクリーン上映と同時に配信もされますよね。この試みは近年ならではのことだと思うのですが、配信という形式をどのように考えていますか?

荒木「とてもありがたいことだと思っています。映画を作りたい人は全国各地にいるはずで、中学生や高校生、もっといえば小学生の方にも“PFF”に応募してほしい。誰もが映画を作ることができるのだと、まだ心も頭も柔らかい子どもたちに知ってほしいとずっと考えていました。一人でもいいから応募者が増えれば、それは私たちにとってとても素晴らしいことなんですよ。一人でも多くの人に映画作りを体験してもらえたら嬉しいし、10代の登場を待っています。その出会いの場の一つとして配信が大きな可能性を秘めていますね」

──DOKUSO映画館では歴代のPFF入選作品が200本以上も見放題です。アーカイブという役割を担うプラットフォームの存在は貴重ですよね。

荒木「たんに映画作品と出会うためだけでなく、たとえば当時の風俗を知ることもできます。いろいろとつくり込みのできる商業映画と違って、自主映画はより自然物に近いですから生々しくもある。もちろん、この作品群を通して近年の日本映画の潮流のようなことを考えることもできるし、観客はいつでも才能と出会うことができる。作り手は長期的に発掘してもらえる可能性がありますよね。これだけ作品が集まると、純粋な映画としての価値を越えた、時代の声のようなものにもなると思うんです」

「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」
東京
期間 / 2023年9月9日(土)~23日(土)
会場:国立映画アーカイブ
※月曜休館


京都
期間 / 2023年10月14日(土)~22日(日)
会場 / 京都文化博物館
※月曜休館


配信
DOKUSO映画館にて2023年9月9日(土)~全作品配信開始!過去入選作品も配信中
公式サイト:https://pff.jp/45th/

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.24)、9月5日発行!表紙・巻頭は井浦新、センターインタビューは門脇麦!

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