『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』を観て、実体験を振り返る

折田侑駿

 この連載ではこれまでに、たびたびスピリチュアル体験やオカルトな事象に触れてきた。たんなる興味本位で、というわけではない。悪ふざけは災いを招いてしまうだろう。実際、スピリチュアルやオカルトというのは、極めて真摯に取り組むべき映画作品のモチーフになり得るし、私自身もその深淵を覗いたことがある。深酒が原因なのかどうかはわからない(日常的に不思議な体験ばかりしていると生活に支障が出るため、そのほとんどをアルコールのせいにしている)。

 しかしながらこの世の中には、面白半分で禁忌に接触しようとする者がじつに多い。SNSの流行による影響も大きいのだろう。露悪的な振舞いも横行している。そんな人々の姿をおさめているフェイクドキュメンタリーが『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』だ。白石晃士監督が自らカメラマン役として出演し、POV形式で恐怖体験を描き続けてきた『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの最新作である。

 本作は、怪奇系ドキュメンタリーを手がけてきたプロデューサー・工藤(大迫茂生)のもとに一本の動画が寄せられるところから始まる。それはとある廃墟内にある不気味な祭壇で無茶苦茶な行動を取る三人の男女と、全身血まみれの“赤い女”の姿を捉えたもの。コロナ禍の影響で会社が倒産の危機に陥っていた工藤は、不謹慎にもこの若者たちや霊能者とともに、下心丸出しで廃墟へと向かうのである。“赤い女”に出会うために──。

 酒を飲むと気が大きくなるということがある。これは怪奇現象ではない。アルコールが脳を麻痺させ、普段は理性によって抑えられている人格が顔を出すからだ。いつもはおとなしい人が暴言を口にしたり、大言壮語を吐いたり、危険な行動を取ったり。しかしまあ酒を飲まない人からすれば、ほとんど怪奇現象のようなものなのだろう。まさに“人が変わる”のだから。しかもこれにはタイプがある。もっともポピュラーなのは「変異型」だが、何かが乗り移ったかのようになる「憑依型」など千差万別だ。とはいえ実際のところはすでに書いているように、普段は抑制されている人格の出現、つまりは潜在意識の顕在化に過ぎない。

 私もよく気が大きくなる人間だ。それもたぶん他の人よりも振れ幅が大きい。やけ酒などというつまらないことはしないので、基本的に気分はアッパー。それがある点を越えたとき、おかしなものを目にしてしまう。心が開放状態にあるからかもしれない。高円寺の謎の楽隊、北千住のサラリーマン風の青年、上野の白いワンピース姿の女性などなど。他にもいろいろ目撃してきた。しかしその場に居合わせた人に聞くと、そんなものはいなかったという。それで私は怪異に遭遇したのだと理解するわけだが、周囲はそんな私のことを訝しんでいる。甚だ不服である。

 今後は証拠を得るためにも、彼ら彼女らの様子を映像におさめてみようと思う。場合によっては工藤プロデューサーに送ってみてもいいかもしれない。もちろん彼には真摯に向き合ってもらうつもりだ。さて、もしも劇場や飲み屋で私を見かけたら、気軽に、いや気安く声をかけてほしい。不思議/恐怖体験にまつわる小話の一つか二つは提供できるだろうから。

『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
監督・脚本 / 白石晃士
出演 / 大迫茂生、久保山智夏、福永朱梨、小倉綾乃、梁瀬泰希、南條琴美、木村圭作、桑名里瑛、吉田悠軌、白石晃士
公開 / 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか
配給:アルバトロス・フィルム
© 2023「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」製作委員会

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.24)、9月5日発行!表紙・巻頭は井浦新、センターインタビューは門脇麦!

お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

折田侑駿 文筆家

“名画のあとには、うまい酒を”がモットー。好きな監督は増村保造、好きなビールの銘柄はサッポロ(とくに赤星)。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING