横浜流星「内面から本物にならなければ、役を生きることはできません」 『春に散る』インタビュー

DOKUSOマガジン編集部

沢木耕太郎による同名小説を原作に、佐藤浩市と横浜流星を主演に迎えて映画化した『春に散る』。名匠・瀬々敬久監督が手がけた本作は、ボクシングを題材とし、“人の生き様”を力強い筆致で描き出したものだ。世界チャンピオンを目指すボクサー・黒木翔吾を演じた横浜は、この作品を通して、翔吾というキャラクターを通して、俳優としても人間としてもさらに前に進むことができたという。全身全霊をかけて挑んだ作品の裏話を語ってもらった。

も大切にしていた格闘家へのリスペクト

──出演が決まった際の心境を教えてください。

横浜「瀬々監督とプロデューサーから、この作品をいま作りたいという熱い想いがしたためられたお手紙をいただいたんです。若いボクサーの翔吾役をぜひ僕にと。やっぱり誰かに求められるというのは嬉しいことですし、一つひとつの言葉がストレートに響きました。僕自身、幼少期から空手をやってきて、この業界にいなければ格闘家を目指していたはず。そんな僕が夢中になって取り組んでいる俳優という職業を通して格闘家になることができる。夢が一つ叶う喜びがありました。ただその反面、世界チャンピオンというものは生半可な気持ちでは決してなることのできないものだとよく理解していました。空手をやっていたからこそ、です。やるからにはそれらしく見せるだけでなく、身も心も翔吾に、世界一を目指す人間になる覚悟で挑まなければならない。この“覚悟”というものに関しては、どんな作品のどの役でも同じです。内面から本物にならなければ、役を生きることはできません」

──翔吾と師弟関係を築く仁さん役の佐藤浩市さんとのダブル主演についてはいかがでしたか?

横浜「多くのことを学ばせていただけるだろうと思っていたので、浩市さんの胸をお借りして、精一杯ぶつかっていこうという気持ちでした。尊敬する大先輩ではありますが、作品の中では対等に向き合わなければならない存在です。なので変に緊張したり力んでしまうことがないよう、邪念を払って挑むべきだと考えていました。一人の人間として、しっかり対峙しなければと」

──ボクサーである黒木翔吾というキャラクターにはどんな印象を抱きましたか?

横浜「彼は今のこの一瞬を大切に生きている人間です。仁さんにボクシングを教えてほしいと懇願する姿が顕著ですが、翔吾のあのような言動はとてもよく理解できます。すべてはいましかない。人生は本当に一度きりですし、いつ何が起こるか分かりません。もしかしたら明日死ぬかもしれない。だからこそ、今のこの一瞬を大切に生きたい。僕自身も常に思っていることです。思い立ったら即行動するところなんかは彼と同じです。翔吾と僕とでは感情表現の方法が違いますが、生き方の根本の部分では共鳴し合っていました」

──実際に演じるうえでどのようにして翔吾のキャラクターを掴んでいきましたか?

横浜「思ったことをすぐ言葉に出したり、行動で示したり、いつも感情を解放している彼の性質を大切にしていました。翔吾として周囲の人々と会話をしているときに生じた心の動きも、つねに表に出すよう心がけていました。僕自身は日常の会話の中で何かを思ったりした際、基本的に表に出さないので、翔吾の持つ飢餓感を表現するためには意識をつねに外に向ける必要がありました。それと役を掴むえうで大きかったのは、やはり肉体的な作り込みです。運動量はもちろんのこと、食事面もそうで、実際に格闘家のような生活を送っていました。ここで特に空手をやっていた経験が活かされましたし、友人からのアドバイスも大きかったです。試合前には何を食べて、試合後はどのようにしてリカバリーしていくのか。心身ともに翔吾に近づけていくため、このあたりは徹底的に実践しました。本作では計量シーンというものが登場はしませんが、翔吾の階級であるフェザー級の基準値の57.15キログラムに自ら合わせていました。映画を観る方々には伝わらないところかもしれませんが、この作品をやるうえでは避けられないこと。格闘家へのリスペクトは最も大切にしていたことです」

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横浜流星
よこはまりゅうせい|俳優
1996年9月16日生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。近年の主な映画出演作に『きみの瞳が問いかけている』、『流浪の月』、『アキラとあきら』、『線は、僕を描く』、『ヴィレッジ』。2024年短編主演映画『MIMI』の公開が控えており、さらに2025年NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」で主演を務める。

『春に散る』
監督 / 瀬々敬久
脚本 / 瀬々敬久、星航
出演 / 佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、坂東龍汰、松浦慎一郎、尚玄、奥野瑛太、坂井真紀、小澤征悦、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子
公開 / 8月25日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか
©2023 映画『春に散る』製作委員会

不公平な判定で負けたことをきっかけに渡米し40年ぶりに帰国した元ボクサーの広岡仁一(佐藤浩市)と、同じく不公平な判定負けで心が折れていたボクサーの黒木翔吾(横浜流星)。飲み屋で出会って路上で拳を交わしあい、仁一に人生初のダウンを奪われた翔吾は、彼にボクシングを教えてほしいと懇願する。2人は世界チャンピオンを共に目指し、“命を懸けた”戦いの舞台へと挑んでいく。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / 伊藤省吾(sitor) ヘアメイク / 永瀬多壱(Vanites)
衣装 / ジャケット・シャツ・パンツ・ブーツ:全てラッド ミュージシャン(ラッド ミュージシャン 原宿)

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」8月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン8月号(vol.23)、8月5日発行!表紙・巻頭は横浜流星、センターインタビューは中島歩!

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