中村守里×外山文治─早熟で聡明な彼女の胸に宿る密やかな放熱

外山文治

 中村守里が女優を志したのは、あまりにいじらしく、いたいけな動機だった。かつて中学一年生で飛び込んだ芸能界は、父親を亡くした彼女が家族を支えるために模索した唯一の「就職先」であった。夢や憧れよりも守るものがあった彼女は、幼くして女優業で家計を支えることを選び、各芸能事務所が一同に会する公開スカウトオーディションに参加。そこで60社が彼女の争奪戦を繰り広げた。驚異的な数字である。傍らに座る現在のマネージャーが「佇まいが壊れそうな感じだった。色白というかまるで透明だった」と回顧するほどに、彼女は周囲の目を引く存在だったそうだ。

「私はずっと家族の力になりたいと思っていました。父がエンターテイメントが好きだったし、私も映画やドラマの一部になれる喜びがありました。でも実際は楽しさよりも反省が多すぎて、いつまでも納得ができない。人前に出るのは得意じゃなくて。厳しい世界だなと思います」

 本人はそう言って謙遜するが、近年では『アルプススタンドのはしの方』『世界の終わりから』と話題作への出演が続き、放送中のBS松竹東急の連続ドラマ「カメラ、はじめてもいいですか?」ではメインキャストで出演している。秋には気鋭の俳優・青木柚とダブル主演を務めた『まなみ100%』の公開が控える、まさに将来有望「きとらすばい」な逸材である。

 彼女のキャリアの中において、とりわけ印象に残ってる出来事は初主演映画『書くが、まま』における上村奈帆監督との出会いだ。

「上村監督の前だと変なプレッシャーがなく、自由に芝居ができます。絶対に否定しないし、温かくて波長が合う気がしています。初めにそういう人に出会えたことは運だと思いますし、その後に参加した作品も素敵なものばかりだから、同年代の活躍をみても焦らず自信を持っていこうと思えるんですね。仕事が空いた時期だって自分を大きくするための時間だと考えるようにしています」

 現在、中村さんは大学に通いながら芸能活動を続けている。好奇心が旺盛で法学部を先行した彼女は、芸能界とは違う交友関係に身を置いても自然体で、誰に対しても分け隔てがないという。

「でも私、優等生っぽく見られますけど、本当はそうでもないです。年々、拗らせてますし。前はアイドル活動もしましたが、応援して下さる方のイメージを崩さない方がいいのかなと悩んで、ありのままの自分が出せなかった。心を素直に開くの難しかったです」

 自分に向けられる虚像と現実の狭間で自問自答する日々もあったというが、心に嘘をついたり、必要以上にギラギラすると自分じゃなくなると思っていた。この業界にはたくさんの魅力的な表現者がいるからこそ、自分の芯だけは見失わないようにしているのだそうだ。

 最後に今後してみたい役を問うと「二面性のある役柄」だと即答してくれた。金髪や坊主など今までのイメージとは違うキャラクターも演じてみたい。

「色んなことにチャレンジしたいです。あまりギラつくタイプではないですが、心の奥底は人一倍燃えているんです」

 中村守里、20歳ーー早熟で聡明な彼女の胸に宿る密やかな放熱が、多くの人々へと飛び立つ日を待っている。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国公開中。

中村守里
なかむらしゅり|俳優
2003年6月14日生まれ、東京都出身。14歳で俳優デビュー後、ラストアイドルファミリーの派生ユニット・Love Cocchiのメンバーとしても活動(2017年ー2020年)。初主演映画『書くが、まま』でMOOSIC LAB 2018にて最年少15歳で最優秀女優賞を受賞。2023年は映画『美しい彼〜special edit version〜』『ヒッチハイク』『カタオモイ』に出演、青木柚とW主演を務めた映画『まなみ100%』が9月29日公開予定。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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