毎熊克哉×片山慎三監督 前編ー二人が語り合う、映画の入口

毎熊克哉

片山さんの作品は最初から最後まで計算しつくされている印象があります──毎熊克哉

ある程度のリアリティを残したまま、どうやって映画作品として成立させるかを考えています──片山慎三監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)

毎熊「今回は『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』を監督された片山慎三監督をゲストとしてお迎えしています。これは内田英治監督との共同監督作品ですよね。内田さんとは何作かご一緒しているので、内田作品のカラーのようなものは何となく分かる気がしています。本作は6編のエピソードから成る長編映画で、それぞれ監督を担当されているパートが異なりますよね。片山さんがどの部分を監督されたのかはエンドロールで知ったのですが、これまでの過去作のイメージを覆されたといいますか。“片山さんってどんな監督なんだろう?”という興味がより大きくなりました」

片山「この映画の企画は内田さんからお声がけいただいたものです。最初は10分くらいの短編を数人の監督でリレー形式で手がけていくという小規模な作品を想定していました。でも、シナリオの作成やキャスティングを進めていくうちに、伊藤沙莉さんが主演に決まって。さらにその相手役として竹野内豊さんが出演してくださることに。するとそれなりに予算もついて、当初の目論見から大きく飛躍した企画になってしまって(笑)。とはいえ僕としてはB級ジャンル映画を作りたい気持ちがありました。最終的に愛おしい仕上がりになっているのは内田さんの力ですね」

『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』©2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会

毎熊「内田さんの作品はポップで愛おしいものが多いですよね。『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』では、片山さんのパートが内田ワールドに馴染んでいるのが不思議でした! 僕が感じる片山作品の魅力は、どの作品も、ものすごく残酷にえぐってくるのに、同時に美しさがあるところです。『岬の兄妹』『さがす』『ガンニバル』など、サイズ感や題材は違うけれど、どれもエンターテイメント作品でありながら芸術的で、そのバランスが最初から最後まで細かく計算し尽くされている印象があります。ポスターや予告編でこんな感じの作品なのかな? と想像して観ますが、いつも良い意味で裏切られてワクワクしています」

片山「生々し過ぎず、かといってあまりにも幻想的なものにならないように、ある程度のリアリティを残したまま、どうやって映画作品として成立させるかを考えています。リアル過ぎても面白くないし、いくらフィクションとはいえリアリティが欠けていたら緊張感がなくなる。このバランスを常に意識していますね。助監督時代には映画もテレビドラマもどちらもやりました。映画の領域ではより作家性を重視していて、テレビの領域ではマスに届けることを重視しているのを感じていました。ある種、両極端ですよね。この経験から、現在は監督としてどちらも兼ね備えた作品を作らなければと思っています」

『岬の兄妹』©SHINZO KATAYAMA

毎熊「片山さんの映画の入口はどういったあたりなんでしょうか。僕はジェームズ・キャメロン作品だったり、幼少期の頃に観たハリウッド映画の影響が大きくて。彼らの作品への憧れが、いま歩んでいる映画の道に繋がっています。そして自分自身がこの世界に足を踏み入れてから日本映画や韓国映画、いろんな映画を観るようになりました。自分は日本人なのに、なんで母国の映画を観てこなかったんだろうって、邦画の魅力に気がつきましたね。片山さんといえばポン・ジュノ監督の助監督も経験されていますが、彼の影響は大きいですか?」

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

片山「あると思います。でもそれは無意識的な部分であって、もっと自分らしさみたいなものを打ち出していきたいですね。やはりビッグネームなのでしょうがない面もあるのですが、“ポン・ジュノ監督の元助監督”というところから脱したい気持ちはあります。それに僕ももともとは、『ダイ・ハード』のような映画を作るために映画監督の道に進んだ人間なんですよ。やがて映画を学ぶうちに相米慎二監督や今村昌平監督の作品に出会って感銘を受けました。日本映画はこんなにも面白いんだと。でも原点にあるのは毎熊さんと同じく、ハリウッド大作や香港のアクション映画だったりするんです」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。メインキャストとして出演する新ドラマ「彼女たちの犯罪」(読売テレビ・日本テレビ系)が7月20日より放送。

片山慎三
かたやましんぞう|映画監督
1981年2月7日生まれ、大阪府出身。中村幻児監督主催の映像塾を卒業後、ポン・ジュノ監督作やNetflixシリーズ「全裸監督」、また竹中直人監督作や山下敦弘監督作などで助監督を務める。2018年、自費で製作した『岬の兄妹』で長編映画監督デビューし、全国6館から50館以上へ拡大公開、第41回ヨコハマ映画祭新人監督賞などを受賞する。2022年に商業映画デビュー作『さがす』では第47回報知映画賞監督賞など多くの賞を受賞。ディズニープラス「スター」オリジナルドラマシリーズ「ガンニバル」でメイン監督を務めた。

『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』
監督 / 内田英治、片山慎三
脚本 / 山田能龍、内田英治、片山慎三
出演 / 伊藤沙莉、竹野内豊、北村有起哉、宇野祥平、久保史緒里(乃木坂46)、松浦祐也 他
公開 / テアトル新宿 他、公開中
©2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会

​​『岬の兄妹』
DVD&Blu-ray発売中
監督 / 片山慎三
出演 / 松浦祐也、和田光沙 他
DVD:4,180円/Blu-ray:5,280円(税込)
発売元:アスミック・エース
販売元:TCエンタテインメント
©SHINZO KATAYAMA

『さがす』
DVD&Blu-ray発売中
監督 / 片山慎三
出演 / 佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
価格 / ¥4,180(税込)
発売・販売元 / ギャガ
©2022『さがす』製作委員会

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

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DOKUSOマガジン7月号(vol.22)、7月5日発行!表紙・巻頭は清原果耶、センターインタビューは染谷俊之×吉田美月喜!

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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