映画ファンに愛される町の名画座「下高井戸シネマ」 ー ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょうwith花柳のぞみ

ミヤザキタケル
花柳のぞみ

映画アドバイザー・ミヤザキタケルさんが、俳優・花柳のぞみさんと一緒に全国津々浦々のミニシアターを巡り、各劇場の魅力や推しポイントをお届けします。目指すは全国のミニシアター制覇♪

ミヤザキタケル

今回は、学生で賑わい、昭和レトロな雰囲気を残す町のミニシアター「下高井戸シネマ」にお伺いしました。

 映画の世界にどっぷりと足を踏み入れ始めた20代前半の頃、まだサブスクもなければ金銭的にも余裕がない時代であったため、今は亡きTSUTAYA東池袋店のDVD5本1000円レンタルや、各劇場のあらゆる料金サービスを駆使してさまざまな映画との出会いを果たしていた。もしあの頃、池袋ではなく下高井戸に住んでいたのなら……。そう思わずにはいられないサービスと親しみやすさを併せ持つ、映画ファンに愛される町の名画座がある(名画座とは、封切館での公開を終えた作品や、過去に上映された作品を上映する映画館)。京王線と世田谷線の2線が通る下高井戸駅から徒歩2分、学生で賑わう商店街や昭和レトロな雰囲気を残す市場が印象的な町にあるミニシアター「下高井戸シネマ」である。

 その始まりは昭和30年代前半にまで遡り、当初は東映の封切館「京王下高井戸東映」として幕を開けたのだが、1980年に名画座へと転向。名称も「下高井戸京王」に。その後、木造建築であった建物が現在の建物になり、1988年に運営会社が映画会社ヘラルドグループに変わったタイミングで、「下高井戸シネマ」に改名。ところが、1988年に同社の撤退によって下高井戸シネマは閉館の危機に……。そんな中、「映画の灯を消してはいけない」という地元の人々の存続を望む声や援助を受け、同館のスタッフであった2名が新会社シネマ・アベニューを設立。そうして今も、映画の灯は消えることなく下高井戸の地に灯り続けている。

 1階には別店舗、3階から上はマンションという建物の2階に居を構える下高井戸シネマ。2階へと至る階段を上がると最初に目がつくであろう昔懐かしのチケット購入窓口は、ネット予約や自動発券機が主流な現代において、若者には新鮮さを、年配の方には懐かしさを感じさせることだろう。自然光が入る明るい雰囲気漂う劇場ロビーには、上映作品のフライヤーや複数の座席が設置されているほか、飲食物・パンフレット・劇場オリジナルグッズなどの販売、近隣エリアの飲食店やイベントなどの紹介もあり、上映前後の時間を有意義に過ごすことができる(下高井戸シネマの公式Instagramでは、下高井戸周辺のグルメ紹介もしているので要チェック)。スクリーンの座席数は126席、DLP映写機のほか35mm映写機も備えており、邦画・洋画含め良いものを上映したいという方針のもと、ミニシアター系の作品から『トップガン マーヴェリック』『RRR』といったシネコンでかかる超大作、往年の名作・名監督の特集上映など幅広い作品を日夜上映。ゲストを招いてのトークイベントなども定期的に開催している。また、スクリーンサイズを調整するバリマスクの存在や、上映前には鐘が鳴ったりと、60年近く続く映画館ならではの古き良き映画文化に触れられるのも下高井戸シネマの醍醐味。そして、驚くべきは映画ファン歓喜の会員特典! 入会金3500円で有効期間は1年間となるのだが、入会時点で招待券2枚が手に入り、通常の鑑賞料金は990円均一に。1回の鑑賞で捺印されるスタンプが5個溜まると招待券がもらえるほか、同伴者割引、2カ月分の上映スケジュール表の郵送など、とてもお得に映画が楽しめる会員特典になっている(詳しくは公式HPをチェック!)。それもこれも、日常の中で気軽に映画を観に来られる場所であり続けたいという想いが背景にあるからこそ。冒頭で「下高井戸に住んでいたのなら……」と記した意味、そろそろ伝わってきたのではないでしょうか。

 現在支配人を務める木下さんは、シネマ・アベニューを立ち上げた一人である前支配人のご息女。元々は大手損保会社で働いており、それまで下高井戸シネマの経営に携わってこなかったのだが、2019年に父が亡くなり、自分が辞めても続いていく損保会社と、自分が引き継がなければなくなってしまう映画館とを天秤にかけた時、父の跡を継ぐことを決意。当然迷いはあったものの、「やってみてダメだったらやめれば良いんじゃない」と言う母の言葉に背中を押されたという。そうして右も左も分からぬまま支配人に就任した翌年に、新型コロナウイルスが蔓延。ご存知の通り、全国のミニシアターが休館を余儀なくされ窮地に立たされた。そんな危機的状況の中、周囲の反対がありながらもいち早く始めたクラウドファンディングには、たった2カ月で1700人近くもの支援者が集まり、会員が1000人も増えた。10〜20人集まれば良いと考えていた木下さんにとっては予想外の結果となり、下高井戸シネマが多くの人たちに愛され必要とされている場所なのだと知る初めての機会になった。経営を引き継ぎ間もなく4年。あらゆる困難を乗り越えた今、「ようやくスタートラインに立てた感じがする」と現在の心境を木下さんは語ってくれた。

 長年に渡りたくさんの人々から注がれてきた愛と、親子の絆によって灯された映画の灯。そう言うと仰々しくもあるが、その灯は下高井戸という町同様、気軽にふらっと立ち寄れるアットホームな空気や心地良さが伴うあたたかなもの。入口が2階にあり気軽に中を覗けない建物の構造上、初めて訪れる方には敷居が高くも感じられるが、軽い気持ちで下高井戸シネマへと至る階段を登ってみてください。そこにはまだ見ぬ景色が待っているかもしれません。それでは、次のミニシアターでまたお会いしましょう♪

花柳のぞみ

ここからは、花柳のぞみが「下高井戸シネマ」の見逃せないところをご紹介します。題して「はなやぎのビビッとポイント!」

1. にゃ、ニャンだ! この秘密の通り道は……!? 下高井戸シネマのスタッフさんによる愛の装飾が至る所にあってほっこりします。ぜひ探してみて〜!

2. 劇場入口付近にはチケット窓口が! うーん……良い。今は電子チケットが主流だからこそ、アナログな体験に心惹かれてしまいます。

3. フォントフェチ花柳。この真っ赤なドアとレトロなフォント……たまらんです!! ここから非日常空間に入るんだって、ワクワクします♪

4. 素朴な味が大好きなのです! 牛乳もなか!! パッケージも可愛くて、ついつい下高井戸シネマのロゴとパシャリ。映画を観た後はもなかに癒されよう〜!

ミヤザキタケル

花柳さん、ありがとうございます! 「下高井戸シネマ」にはまだまだ魅力的なところがたくさんあるので、ぜひみなさんも探してみてくださいね。次回はどんなミニシアターにお会いできるでしょうか。ぜひお楽しみに♪

ミヤザキタケル
みやざきたける|映画アドバイザー
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweet・PHILE WEBでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。

花柳のぞみ
はなやぎのぞみ|俳優
1995年、秋田県出身。趣味は、カメラとおさんぽ。主な出演作に映画『人狼 デスゲームの運営人』メインキャスト・姫菜役、YouTubeドラマ、TOKYO MX「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」保田紘子役。現在、「NURO モバイル」web CMに出演中。

記事内写真 / 花柳のぞみ
文 / ミヤザキタケル

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」7月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン7月号(vol.22)、7月5日発行!表紙・巻頭は清原果耶、センターインタビューは染谷俊之×吉田美月喜!

お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

ミヤザキ タケル 映画アドバイザー

1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweetでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING