『トロイの欲情』 思春期の記憶がよみがえる 2021.3.30
ミヤザキタケル
身体は大人と遜色ないものの、未成年であるが故にあらゆることが禁じられていた16歳のあの頃。目と鼻の先にある大人の世界はとても魅力的且つ刺激に溢れて見えて、触れようとすればすぐに届きそうだけど、あと一歩のところで及ばない。
抗おうにも手立てが全く見出せない。そんな誰もが通ってきたであろう思春期真っ盛りの頃の葛藤がよみがえる。学校には行けず、友人もおらず、バイト先の店長は煩わしくて、気になるあの娘は他所の男になびいてしまう。
何もかも上手くいかず、失意のドン底にいるというのに、性欲だけは止まることを知らず平常運転。そんな主人公・達也の情けなくて恥ずかしくてもどかしい感覚に覚えのある人は多いと思うが、破滅的な匂いが漂う大人の女性との出会いを経験している人は少ないはず。
そう、目にすることになるのは、あの頃通ることのなかった未知の領域。そして、もう16歳ではなくなった今、大人になった今だからこそ、不安定な生き方を選ばざるを得なくなってしまった大人(実瓜子)の心も汲み取ることができると思う。
互いに問題を抱えた二人の出会いと逃避行の果てに訪れる結末に、あなたは一体何を思うだろう。
©岡 太地
トロイの欲情
PFFアワード2005年準グランプリ作品。それぞれに問題を抱える思春期真っ盛りの少年と人妻の逃避行。
ミヤザキタケル
映画アドバイザー
WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。
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