『はっこう』 人の心の発酵と腐敗と循環 2021.3.30
人の心の機微や変化を、「発酵」やラテンのリズムと絡めて描く人間ドラマ。ワンオペ育児・発達障害の可能性がチラつく子ども・身勝手な旦那、ありとあらゆる不安や不満に心が蝕まれ、常にフラストレーションが蓄積している状態の主人公。
そんな彼女の心模様や状況に共感を覚える人もいると思うが、芽生えてしまった負の感情をどのように発散させていくかは、人それぞれに手段が異なる。そして、その発散のさせ方次第で、心が“発酵”へと至るのか、“腐敗”へと至るのか、辿る道筋は大きく変わっていく。
何か問題に直面した際、放置して解決する場合もあれば、放置すればする程に状況が悪化してしまう場合もある。一概にどう対処することが正しいとも言い切れず、万人共通の明確なセオリーも存在しない。何とどう向き合うべきかは、自分自身で答えを探るしかない。
紙一重にある“発酵”と“腐敗”の狭間で揺らめきながら、一向に答えも見出せず、狂気を帯びていく主人公。その狂気へと足を踏み入れる可能性は、きっと誰もに秘められている。
ただ、どんな結果になったとしても、道は必ず残されているのだということを、彼女が辿る末路を通して垣間見ることができる。短くて、深くて、少しばかり笑える不思議な作品。
©熊谷まどか
はっこう
PFF2006グランプリ作品。家事・育児・旦那に疲れ、疲弊した専業主婦の危うい心模様を「発酵」と絡めて描くユーモラスな人間ドラマ。
ミヤザキタケル
映画アドバイザー
WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。
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