毎熊克哉×𠮷田恵輔監督 対談後編ー役者の演技に求めるもの 2024.10.7
いまの“社会”や“世間”というものが色濃く反映されているのを感じます──毎熊克哉
実つくる映画と俺のキャラクターが一致しないってよくいわれますよ(笑)──𠮷田恵輔監督
毎熊「𠮷田恵輔監督がゲスト回の後編です。前編では、𠮷田さんが映画の道に進んだいきさつや、“𠮷田映画っぽさ”などについてお話ししました。𠮷田さんの監督としての一番の仕事は脚本を書くことで、“現場は祭り”だとおっしゃっていましたが、役者の演技に求めるものはあったりしますか?」
𠮷田「基本的にナチュラルなものがいいですね。ただ難しいのが、演じる人にとってのナチュラルなものが、映画の登場人物の振る舞いとしてナチュラルに見えるとはかぎらないこと。それから同じセリフでも、ある人が口にすると妙に生々しく聞こえるのに、別のある人が発すると、それはただのセリフにしか聞こえなかったりする。でもだからといって生々しさばかりを集めると、ドキュメンタリーのようになり、劇映画だからこその華がなくなってしまう。このバランスが難しいですね。ただ俺の作品の場合、完全に役のイメージに合う人をキャスティングしているし、みんな過去作を観てくれています。だからそんなにズレることはないかな。役者的には監督によってやりやすさが変わってきますか?」
毎熊「うーん……やりやすさよりも、やりにくさを感じてしまうことはありますかね。それは演出家である監督が、何かしらの演技論を信じてやまない場合です。もちろん、それが悪いことだとは僕は思いません。スタイルを持つのは素晴らしいことだとも思います。ただ役者としてご一緒する際、作品全体のことや演じるキャラクター以上に、その方法論の共有が重視されるのはちょっと……っていう。演技にはいろんな流派のようなものがあると思っていて、その中でどれかを絶対的な正義として求められると、少しキツさを感じてしまいますね。とはいえその現場に参加する以上、トライしてみようと気持ちを切り替えています。役者の動きに関してはどうですか?」
𠮷田「『BLUE/ブルー』(2019年)というボクシング映画を撮ったときは殺陣も俺がつくりました。というかほかの作品でもまず自分が動いてみせて、それをやってもらう流れですね。ただ、ボクシングはアクションだけど、たとえば『ヒメアノ〜ル』(2016年)で描いている暴力ってアクションじゃないんですよ。アクションと暴力は違う。あくまでもフィクションであり映画の撮影だから怪我には注意しないといけないけど、暴力描写をアクションに寄せてしまうと、自分たちの身近なところにある本当の暴力的なものからどんどん遠くなってしまうんです」
毎熊「これまで映画の中でたくさん暴力をふるってきたので(苦笑)、おっしゃっていることはよく分かる気がします。力いっぱいやればいいものでもないですしね。前編でもお話しした𠮷田さんの作品特有の“嫌な感じ”というか、どれだけ観客が生理的に受け付けられない瞬間をつくるか、ということだったりするのかなと思いました。それから𠮷田さんの作品の特徴として、いまの“社会”や“世間”というものが色濃く反映されているのを感じます。どのように捉えていますか?」
𠮷田「面白いと思っているかな。良くも悪くも。政治なんかに関しても、一周まわって面白いというか。いまの世の中、あまりにもできすぎたことが起こったりするじゃないですか。不謹慎かもしれないけど、興味深いと思ってますね。それに俺は自分の知らないことがあるのが嫌でしょうがないから、まず知ろうとする。すると他人との会話のネタやきっかけが増えるわけです。それに俺はフットワークも軽い。だからとにかく友だちが多いんですよ。行きつけの飲み屋のお母さんや娘さんだったり、そこの常連客だったり。ほかにもたくさん。つくる映画と俺のキャラクターが一致しないってよくいわれますよ(笑)」
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。公開待機作に『初級演技レッスン』がある。
𠮷田恵輔
よしだけいすけ|映画監督
1975年5月5日生まれ、埼玉県出身2006年、自主制作映画『なま夏』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。同年に『机のなかみ』で長編映画監督デビュー。2021年公開の『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で監督賞を受賞。その他の監督作品に、『さんかく』、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、『麦子さんと』、『銀の匙 Silver Spoon』、『ヒメアノ~ル』、『犬猿』、『愛しのアイリーン』『神は見返りを求める』など。
『ミッシング』
監督・脚本 / 𠮷田恵輔
出演 / 石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、柳憂怜、美保純 ほか
Netflixにて配信中
©2024「missing」Film Partners
撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.33)、9月5日発行!表紙・巻頭は菅田将暉、センターインタビューは寛一郎!
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。