毎熊克哉×𠮷田恵輔監督 対談前編ー“𠮷田映画っぽさ” 2024.9.30
僕らがどこかで抱いたことのある、“嫌な感じ”が収められている印象が強くあります──毎熊克哉
俺はどの作品でも最後には愛を描きたい。そう思っているんです──𠮷田恵輔監督
毎熊「今回は『空白』(2021年)や『ミッシング』(2024年)などの𠮷田恵輔監督をゲストにお招きしています。𠮷田さんの作品でいうと、個人的にはやっぱり『ヒメアノ〜ル』(2016年)との出会いが衝撃的だったんですよね。やべぇもの観ちゃったなと思って。ほかの作品もそうですけど、とくにこれは暴力描写が生々しい。𠮷田さんの作品には、僕らがどこかで抱いたことのある、“嫌な感じ”が収められている印象が強くあります。どのような流れで映画の道に進んだのですか?」
𠮷田「幼稚園の頃には映画監督になりたいと思ってましたよ。もともとジャッキー・チェンが大好きで、自分の理想とするジャッキーのアクションシーンを描きたかったんです。それで小学生になると映画関連の本を読むようになった。するとそこには、いろいろな経験をすることが物語を創作するうえで重要だと書いてある。それで俺は学校の勉強なんてあんまり意味がないんだと解釈しちゃって(笑)。でもその頃から、人間のことをちゃんと知ろうと思うようになったし、他人とのズレを大切にするようになった。それから専門学校で本格的に映画の勉強をスタート。塚本晋也監督に師事していました」
毎熊「僕も専門学校で学んだんですよ。もともとは監督志望でした。でもいまになってよく分かるのですが、映画は監督だけでなく、俳優はもちろん、撮影や照明、美術、メイクなどなど、さまざまな部署の力が結集して成り立つものですよね。当時は撮影と照明のことを分かっていないと監督は務まらないだろうと考えていたので、まずそこから学び始めました。いまはもう自分が監督をすることにこだわりはありませんが、もしもやるのなら、役づくりの過程で自分自身を掘り下げるのと同じように、本当に切実な何かを内側から引きずり出さないと書けないし、撮れないんだろうなと思っています」
𠮷田「俺は自分で脚本を書くんだけど、ホンを書くのは苦しいですね。自分の場合はほぼこれがメインの仕事だといっても過言じゃなくて、現場で監督をしているときはお祭り気分。でもホンを書くことはどれだけやってもキツい。しかも映画の世界に足を踏み入れた最初の10年間は、自分の手がけた作品が誰にも認めてもらえなかった。新人監督向けの映画祭って、意外と一次審査は通るもんなんですよ。でも俺は10年間、一次審査さえ通らなかった。あの地獄を知ったうえで、いまも内側から絞り出してる。だから自分の過去作をうっかりパクってしまうこともあったり(笑)。毎熊さんって、出てきた当初は“Vシネの帝王”になりそうな印象があったけど、そっちには進みませんでしたね」
毎熊「本当にさまざまなタイプの映画やドラマに出させていただけるようになりました。いろんな方々とのご縁があって、役者としてのいまの自分があります。ただ僕の理想のひとつとしては、何をやらかすか分からないような役者でいたいなと。暴力的な役を演じていたかと思えば、恋愛モノもやるし、コメディもやる。かと思えば、またクソ野郎を演じたり(笑)。年齢によって演じられる役も変わってくると思うのですが、特定のイメージに縛られたくないなって思うんです」
𠮷田「それでいうと俺は、“𠮷田映画っぽさ”みたいなものをわりと意図的に取り入れてるかな。たとえば、劇中で誰かが大切なことを語るシーンはだいたい居酒屋だったり。店の雰囲気が違ったとしても、カット割りは同じだし、画づくりは統一しようと心がけていて。違う映画でも、あえて同じロケーションで撮影したり。『空白』と『ミッシング』の重要なシーンは愛知県・蒲郡で撮ってるんですよ。でもそういった“𠮷田映画っぽさ”とは違う角度でいうと、俺はどの作品でも最後には愛を描きたい。そう思っているんです」
※後編はweb限定
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。公開待機作に『初級演技レッスン』がある。
𠮷田恵輔
よしだけいすけ|映画監督
1975年5月5日生まれ、埼玉県出身2006年、自主制作映画『なま夏』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。同年に『机のなかみ』で長編映画監督デビュー。2021年公開の『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で監督賞を受賞。その他の監督作品に、『さんかく』、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、『麦子さんと』、『銀の匙 Silver Spoon』、『ヒメアノ~ル』、『犬猿』、『愛しのアイリーン』『神は見返りを求める』など。
『ミッシング』
監督・脚本 / 𠮷田恵輔
出演 / 石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、柳憂怜、美保純 ほか
Netflixにて配信中
©2024「missing」Film Partners
撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿
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DOKUSOマガジン9月号(vol.33)、9月5日発行!表紙・巻頭は菅田将暉、センターインタビューは寛一郎!
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1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。