遠藤雄弥×外山文治─熱情と、柔らかな男の香り

外山文治

 血が滾るほどの熱情と、柔らかな男の香り――。俳優・遠藤雄弥はその両極端の魅力が共存している。今年のヒット作となった主演映画『辰巳』におけるバイオレンスシーンの中でも、不思議と彼の眼差しの奥は優しく、孤独な背中はどこか人懐っこい温かさに満ちて、観客を惹きつける。今回の対談はその魅力の源に迫るような時間となった。

 「両親の意向で物心ついた時にはもう児童劇団に入っていて、ドラマや映画のオーディションを受けるのが生活の一部でした。映画への初出演は『ジュブナイル』(山崎貴監督)です。当時はまだ13才で、そこから廣木隆一監督の『L'amantラマン』やNHKの連続テレビ小説『ちゅらさん』などに出演しました。それから事務所に入り、俳優集団D-BOYSになってミュージカル『テニスの王子様』やドラマ『のだめカンタービレ』など舞台やドラマを中心に活動していました」

 さらりと語られる華々しい経歴とは裏腹に、彼はその過去をどこかこそばゆく話してくれる。ほとんどの役者は幼少の頃から芸能界に憧れを抱き、いつかスクリーンの中で活躍したいと願うが、遠藤雄弥は「ぼくの中で能動性がなかったから。言われるがままでした」と回顧する。だからこそ眩い世界は楽しさよりも不安ばかりだったそうだ。

「このままだと立ち行かなくなるのは分かっていたんです。歳をとった時にこの仕事はできないだろうと分かっていました。だからぼくは今一度、俳優業そのものに向かい合いたくて、格好良く言えば、本質的な表現者に生まれ変わりたかったんですね」

 彼には自らの状況を冷静に判断しストイックに行動する力があった。しかし、思春期の男の子が黄色い声援を浴びる立場を容易く手放すことなどできるのだろうか?

 「迷いはなかったです。やれるところまでやろうと決めました。映画に出たいと表明するためにワークショップにたくさん通い、これまでお世話になった監督やプロデューサーに連絡して、菓子折りを持って直談判していました」

 本来の性格は内向的で人見知りだというが、映画への真っ直ぐな想いが背中を押した。必死に食らいついて活動を続けるうちにアイドル的な要素が削がれ、映画俳優としての佇まいが完成していく。次第に硬質で柔らかい唯一無二の個性が確立されたが、それは単純な生まれ変わりではなく、彼のあしあとは意外なところで役に立っているという。

「今、映画館に足が運ぶ人が少なくなっている。だから舞台挨拶を沢山しようとか、一生懸命に宣伝しようと積極的に取り組んでいます。D-BOYS時代のファンサービスと共通するんです。常に作品を知ってもらうために自分に何ができるかを考えます。ぼくは学がないし社会性もないですが、自分が携わるからには豊かな作品にしたいです」

 映画を愛して汗を流す姿にかつての受け身の姿勢は微塵も感じられない。そのひたむきさに私は心を揺さぶられる。遠藤雄弥がこれからどんな俳優に進化していくのか、楽しみでならない。

「これからは沢山の人と交流を深めたい。映画は俳優だけではできないし、やっぱりチームだと思うんです。日本映画全体が世界と対等に戦っていく、その一員でありたいと思います」

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

遠藤雄弥
えんどうゆうや|俳優
1987年3月20日生まれ、神奈川県出身。2000年に映画『ジュブナイル』で主人公の少年時代を演じ、映画デビュー。その後は多くのドラマ・映画・舞台に出演。近年の主な出演映画として『HiGH&LOW THE MOVIE』全シリーズ、『幻肢』、『泣き虫しょったんの奇跡』、『それでも、僕は夢を見る』、『無頼』などがあり、2022年には第47回セザール賞オリジナル脚本賞を受賞した『ONODA一万夜を越えて』に主演。以降、『の方へ、流れる』や『ゴジラ-1.0』『辰巳』『朽ちないサクラ』など、多彩な作品に出演。

撮影・取材・文 / 外山文治

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」9月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン9月号(vol.33)、9月5日発行!表紙・巻頭は菅田将暉、センターインタビューは寛一郎!

お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING