遠藤雄弥×森田想×小路紘史監督「すぐにこのふたりで映画を撮りたいと思った」 『辰巳』インタビュー

DOKUSOマガジン編集部

 『ケンとカズ』が日本映画界に衝撃を与えてから早くも8年──。主演に遠藤雄弥、共演に森田想を迎えた小路紘史監督の最新作『辰巳』が、満を持して公開となる。自主制作というスタイルでこだわり抜いて作られた本作は、希望を捨てた男と復讐を誓う少女の運命を描くジャパニーズ・ノワールだ。大きなうねりを生み出すであろう本作について、遠藤、森田、そして小路監督に話を聞いた。

100万回くらい語られてるお話を語り直してみたい

──本作でこの顔並びが実現した経緯を教えてください。

小路:『ケンとカズ』に続き、長編2作目もノワールで攻めたいとずっと考えていました。すでに100万回くらい語られているようなスタンダードなお話を、僕の手で語り直してみたいなと。そうして辰巳という男と葵という少女の物語が生まれ、2019年にオーディションを開催したところ、遠藤さんと想ちゃんが来てくださったんです。すぐにこのふたりで映画を撮りたいと思いました。

遠藤:僕はカトウシンスケさんに本作のオーディション情報を教えてもらったんです。あれは『ONODA 一万夜を越えて』(2021年)のカンボジアでのロケ中のことで、いまでもよく覚えています。ふたりで食事をしているときに、「『ケンとカズ』の現場が最高だった」と話していました。それで、小路監督が次作を撮るみたいだからオーディションを受けてみてはどうかと。『ONODA 一万夜を越えて』の現場での僕の居方が良いと言ってくださったんですよ。役の存在の仕方として純度が高いから、小路監督の作品に絶対に合うはずだと。同じ役者であるシンスケさんからそう言われたことが嬉しかったですね。

森田:私はそんな素敵なエピソードはなくて……(笑)。所属事務所に案内が来ていて、書類審査を通過してオーディションを受けました。でも、もともと私が受けたのは辰巳の妹の役でした。

小路:そうなんです。でも想ちゃんの演技や、それこそ居方があまりにも良くて。それで脚本を書き換え、人物設定も変えました。もともといまの葵の役にあたるキャラクターは男性を想定していたのですが、どれだけ探してみてもなかなかハマる人と出会うことができない。強烈なキャラクターですからね。僕としては設定を大きく変えてでも、想ちゃんに出てほしい。彼女の存在がこの映画には必要だと感じていたんです。

森田:二次オーディションに行ってみると、いまの葵というキャラクターが誕生していました。その時点で遠藤さんとのかけ合いをやったのですが、オーディションというよりも、ほとんどリハーサルでしたよね。一時間くらいはやっていましたから。しかもポスタービジュアルにもなっているあのシーンをやったんですよ。

遠藤:想ちゃんとの出会いはよく覚えています。会場のそばで集中力を高めようとしていたところ、黒い革ジャンを着た女性が颯爽と目の前を通り抜けていったんです。「かっこいいな」と思って目で追うと、もう後ろ姿しか見えない。そして会場に入ってみるとその女性がいて、それが想ちゃんでした。もう役に入っていたのかな。あの後ろ姿は忘れられない。

森田:恥ずかしいんですけど(苦笑)。でもたしかに気持ちはすでに入っていたし、格好も自分なりに『辰巳』に寄せていっていたと思います。実際の葵の衣装の一部は、私がイメージしていたものと近かったですしね。

場にはケンカの強い役者しかいない

──『辰巳』は自主制作のスタイルにこだわられていますが、現場はいかがでしたか?

森田:私は制作規模の小さな作品にいくつも参加してきたので、自主映画というか、インディーズとメジャーの違いがまだよく分かっていません。もちろん、制作資金や関わる人の数が違うのは分かりますよ。でも、仕上がったものは等しく作品だなって。

遠藤:僕はもともとメジャー系の作品が多かったので、明確に違いを感じていました。こういったチャレンジングな企画を実現できることもそうですし、現場にはケンカの強い役者しかいない。もちろんこれは例え話ですよ(笑)。とにかく実力のある猛者揃いなわけです。ここに飛び込んで生き抜いていくには、相当な勇気とタフネスが求められるはず。リハーサルの時点でそう感じていました。

小路:現場での自由度の高さもそうですが、夜の公園で稽古をしたことなどは、いかにも自主映画的なものだったかもしれません。しかも辰巳が感情的になるシーンを(笑)。衣装を探しにみんなで古着屋に行ったりしたのも自主映画ならではですよね。ああいった時間が一つひとつの画や作品全体のクオリティにも反映されるものだと信じているフシがあります。

自身の中で一番強くある感情が“怒り”なんです

──本作は『グロリア』(1980年)や『レオン』(1994年)の系譜に連なる作品ですが、それぞれのキャラクターをどのようにして掴んでいったのでしょうか?

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『辰巳』
監督/脚本:小路紘史
出演:遠藤雄弥、森田想
後藤剛範、佐藤五郎、倉本朋幸、松本亮
渡部龍平、龜田七海、足立智充/藤原季節

2024年4月20日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
配給:インターフィルム
©小路紘史

裏稼業で働く孤独な辰巳(遠藤雄弥)は、ある日元恋人・京子(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。一緒にいた京子の妹・葵(森田想)を連れて、命からがら逃げる辰巳。片や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京子殺害の犯人を追う。生意気な葵と反目し合いながらも復讐の旅に同行することになった辰巳は、彼女に協力するうち、ある感情が芽生えていくーーー。

遠藤雄弥
えんどうゆうや|俳優
1987年3月20日生まれ、神奈川県出身。
2000年に映画『ジュブナイル』(山崎貴監督)で主人公の少年時代を演じ、映画デビュー。その後は多くのドラマ・映画・舞台に出演。近年の主な出演映画として『HiGH&LOW THE MOVIE』全シリーズ(16~17/久保茂昭監督)、『幻肢』(14/藤井道人監督)『泣き虫しょったんの奇跡』(18/豊田利晃監督)、『それでも、僕は夢を見る』(18/山口健人監督)、『無頼』(20/井筒和幸監督)などがあり、2022年には第47回セザール賞オリジナル脚本賞を受賞した『ONODA一万夜を越えて』(21/アルチュール・アラリ監督)に主演。以降、『の方へ、流れる』(22/竹馬靖具監督)や『ゴジラ-1.0』(23/山崎貴監督)など、多彩な作品に出演。

森田想
もりたこころ|俳優
2000年2月11日生まれ、東京都出身。
2013年に『鈴木先生』(河合勇人監督)で映画デビュー。その後、『ソロモンの偽証<前篇・事件>/<後篇・裁判>』(共に15/成島出監督)や『心が叫びたがってるんだ。』(17/熊澤尚人監督)などに出演。2018年には、松居大悟監督の『アイスと雨音』で初主演を務める。以降も『朝が来る』(21/河瀨直美監督)、『タイトル、拒絶』(21/山田佳奈監督)、『わたし達はおとな』(22/加藤拓也監督)、『THE LEGEND & BUTTERFLY』(23/大友啓史監督)など多くの作品に出演し、2023年には『愚純の微笑み』(宇賀那健一監督)で主演を務め、同年の主演映画『わたしの見ている世界が全て』(佐近圭太郎監督)では、マドリード国際映画祭外国映画部門にて主演女優賞を受賞している。

小路紘史
しょうじひろし|監督・脚本
1986年生まれ、広島県出身。
短編映画『ケンとカズ』が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011にて奨励 賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭、リスボン国際インディペンデント映画祭 など4カ国で上映される。 2016年に『ケンとカズ』を長編版としてリメイク、東京国際映画 祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、新藤兼人賞・日本映画監督新人賞など、数々の新人監督賞を受賞。本作『辰巳』は、実に8年ぶりの監督作となる。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

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