毎熊克哉×松本壮史監督 対談後編ー2人が語り合う青春の定義

毎熊克哉

個人的に松本さんにはずっと青春映画を撮り続けてほしい──毎熊克哉

魅力的な人生の先輩が登場する映画を観たいですし撮りたいですね──松本壮史監督

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 牧口友紀(TOKYO LOGIC)

毎熊「『青葉家のテーブル』や『サマーフィルムにのって』の松本壮史監督をゲストにお迎えした回の後編です。松本さんの作品は、女性主人公のものが多いという話を少ししました。この二作もそう。男性の監督によっては、女性のキャラクターを撮るのが苦手だという人もいます。その理由を聞いてみると、“等身大の姿を捉えられない”ということらしいんです。男性同士ならではのグルーヴ感は撮れるものの、女性同士ならではのグルーヴ感を捉えるのは難しいと」

松本「僕は男子校出身なのですが、男子が集まって馬鹿騒ぎするあの特有のノリが苦手でした。どちらかと言うと女性が語り合ってるシーンの方がグッときます。とは言え女性のこともわからないので、“等身大の姿を捉えること”はいつも課題です。“等身大”と言えば、僕は青春映画が好きなんですが、最近は十代が何を考えてるのかいよいよわからないので、“等身大”を表現することの難しさを感じています。毎熊さんの好きな青春映画って何ですか?」

毎熊「たくさんあるはずなのに、パッと出てこないですね。そもそも青春の定義って難しいですよね。かつて青春とは10代の特権的なもので、20代以降の人生にはないものだと思っていました。でも30代半ばになってみて、青春はこれからもたくさんあるのだと思えるようになってきたんです。青春というものの捉え方が変わってきたのかもしれません。すごく勝手なのですが、個人的に松本さんにはずっと青春映画を撮り続けてほしいです。広義の意味での青春映画を」

松本「僕は“この時間はいずれ終わるのだ”と、その場にいる全員が知っているのが青春の定義ではないのかなと。だからこそいまをどう生きるか。でも毎熊さんの言うように、年齢じゃないのかもしれませんね。僕も30代半ばになって楽しいことが増えてきましたし。だから10代のものではない青春映画には興味があります。こんな時代ですから、どう生きていけばいいのか分からなくなる人だっているはず。その指針となるような魅力的な人生の先輩が登場する映画を観たいですし撮りたいですね。ところで、毎熊さんにとって心地良い演出ってどんなものですか?」

毎熊「作品によりますね。クランクイン前の時間を含めて“一緒に探していこう”という自由度の高い監督もいれば、目線の動きやセリフの言い方まで細かく指示を出す方もいますから。どちらがどうというよりも、監督との相性が重要な気がしています。少ない言葉で理解し合えることがあれば、どれだけ言葉を交わしても理解し合えないことだってある。だからやっぱり共通の感覚を持てる方とはやりやすい。それから僕は俳優個人の力を超えた、“カット割”の力もあると思っています。カットごとに表現できることもあるはずなので、芝居を反復させることは苦ではありません」

松本「なるほど……カットごとに表現できるもの……素晴らしいです。でもそれって、僕から俳優さんには伝えにくいことなんですよね。編集ってすごく楽しいんですよ。僕は美大を出ているので高校時代には毎日デッサンをしていたのですが、いまになってあの重要性を感じています。一つの対象に対して、アングルを変えることで出力される絵は驚くほど変わってくる。この経験が編集に影響しています。視点を変えると見えるものが変わるのは作品そのものに対してもそう。『サマーフィルムにのって』のレビューで“最後、恋愛ものになったのでガッカリした”というのがあって、面白いと思いました。今は非恋愛ものが求められてる気がするので、次はガッツリ恋愛モノを撮ってみたい。10代の恋愛モノではなく、30代半ば以上の大人の恋愛映画を。毎熊さん、いかがですか?」

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。出演するNHK大河ドラマ『光る君へ』が毎週日曜に放送中。

松本壮史
まつもとそうし|映画監督
1988年1月16日生まれ、埼玉県出身。2021年に映画『サマーフィルムにのって』で長編映画デビュー。主な作品に映画『青葉家のテーブル』、WOWOWドラマ『ながたんと青と』、NHK 藤子・F・不二雄SF短編ドラマ『親子とりかえばや』、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)のほか、くるり、日向坂46、サニーデイ・サービスのMVを製作。第13回 TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞、新人監督賞を受賞。

撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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