東出昌大が山暮らしを通して語る「いまの僕」 『WILL』インタビュー 2024.2.19
多くの映画ファンから圧倒的な支持を集める俳優・東出昌大。現在の彼は山中での生活を基盤としながら、俳優業に向き合っている。映画『WILL』は、そんな彼の生き方や考え方に迫った狩猟ドキュメンタリーだ。山での生活は、彼の俳優としての仕事にどのように影響しているのだろうか。いまの心境を語ってもらった。
「好き勝手に生きてやろうと思っています」
──東出さんの狩猟生活に密着した本作の“はじまり”について教えてください。
「僕自身の実人生が木の幹だとすれば、役者の仕事は枝だと思っていました。ただし、役者という仕事は世間の耳目を集めるものなので、いろいろなイメージがつきもの。役者としての僕が躓いて転んでしまった際に、この実人生までもが瓦解してしまいました。そしてそれまで交流していた方々との関係性や日常が大きく変化していき、僕の内面は混沌としていました。毎日うまく眠れなかったり、ずっと考え事をしていたり。そんな中でも狩猟というのは、僕の実人生上にあるものだったんです。単独忍び猟で山に向き合うことは、僕の根源的なもので人生の核となるもの。世間ではさまざまなイメージが錯綜しているのだと思いますが、ここには嘘がありません。狩猟とは残酷な行為でもありますが、生きる術です。それではこの“残酷”って何なのでしょうか。ここに存在する東出昌大とはいったい何なのでしょうか。そして、生命とは何で、生きるってどういうことなのでしょうか──。そういったいくつもの問いが、本作のスタートです」
──本作を観ていると、東出さんはどこへ行っても愛される人なのだと感じました。日常と撮影現場での東出さんは違いますか?
「いえ、似たようなものだと思います。この映画には役者仲間が何人か登場しますが、みんなとの出会いは仕事の現場です。フリーになってからもフラットな関係は続いていますし、いまの僕の力になってくれる人もいます。それは山での生活でも同じ。むしろ不健康なくらい裏表がない性格だと自分では思っています(苦笑)」
──カメラの前で口にする“壁”という言葉が印象に残りました。誰もがそれなりに壁をつくって生きるこの社会の中で、東出さんは解放されているように感じます。
「身から出た錆とはいえ、世間からのバッシングを受けた際、周囲の人々と築き上げてきたものが無くなってしまいました。それでも僕は生きていきたいし、ちゃんと社会とつながっていたい。そう切に願っているのなら、生きることそのものを大切にしなければならないと気がつきました。壁をつくって装って、綺麗な部分だけを見せていくのもひとつの方法論なのだとは思います。でも僕自身はそれに価値を感じられなくなりました。実人生を最優先して無理なく生きながら、お芝居も人間関係も構築していきたいと考えているんです」
──できるだけ境界を無くしたい、ということでしょうか?
「うーん……好きなことに嘘をつきたくない、ということですかね。いま関わっているみんなのことが僕は好きです。でもここでの会話の文脈を無視して切り取った場合、事実が歪曲して伝わってしまうことにもつながりかねません。ただみんな、お互いのことが好きでつるんでいるだけ。もしかすると、いまのこの時代や社会がそれを許してくれないのかもしれませんが、好き勝手に生きてやろうと思っています」
『WILL』
監督 / エリザベス宮地
出演 / 東出昌大、服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也、MOROHA
公開 / 渋谷シネクイント、テアトル新宿ほか公開中
©2024 SPACE SHOWER FILMS
なぜ俳優である東出昌大が狩猟をしているのか。彼が狩猟をして生命を頂き、生きながらえる生命とは何なのかーー。根底にある気持ちの混沌、矛盾、葛藤を抱える東出昌大という一人の人間が映し出されていく中、MOROHAが発する渾身の言葉とすさまじい熱量が東出自身と重なり合い、問い続けている日々を生々しくスクリーンに映し出す。
東出昌大
ひがしでまさひろ|俳優
1988年生まれ、埼玉県出身。2012年に『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞等受賞。主な映画出演作に『聖の青春』、『寝ても覚めても』、『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『スパイの妻』、『Blue/ブルー』、『草の響き』、『天上の花』、『Winny』。公開待機作に『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』がある。
撮影 / 西村満 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / 檜垣健太郎(tsujimanagement) ヘアメイク / 塩澤優花
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」2月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン2月号(vol.29)、2月5日発行!表紙・巻頭は前田敦子、センターインタビューは東出昌大!
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