『東京ランドマーク』は、僕にとって青春の集大成【毎熊克哉 映画と、出会い 第10回】

毎熊克哉

 今回は個人的に思い入れの強い作品の紹介になります。その前に、少し自分の話をしますね。僕の20代は俳優の仕事がほとんど無く、アルバイトをしながら同じ境遇の仲間と集まって短編映画を作っていました。この制作集団にEngawa Films Project(通称:エンガワ)という名前をつけ、様々な実験的活動をしていたんです。それと同時期に、小劇場の舞台で藤原季節と出会います。その後も彼とは映画『ケンとカズ』や『全員死刑』などでも共演し、僕にとって大切な俳優仲間になりました。そんな彼を主演に据え、エンガワ制作による初の長編映画が、今回紹介したい映画『東京ランドマーク』です。

 9月8日から9月21日の期間に「藤原季節特集」と銘打って、テアトル新宿にて彼の出演作が連日レイトショーで上映されることになり、最新作として『東京ランドマーク』の初公開が決定しました。本作の撮影は約4年前で、編集は最終段階まできていたものの、劇場公開の予定がないまま数年が経ってしまいました。このまま世に生まれ出る事なく消えていく作品になってしまうのか……と諦めそうになっていたタイミングだったので、テアトル新宿のような素晴らしい劇場で上映されることは奇跡。特集上映を企画した季節と周りのスタッフさん、上映を決めてくれた劇場さんには感謝しかないですね。

 本作のメインキャストの義山真司も季節と出会った舞台に出演していて、当時、僕は稽古中に見た真司のお芝居に号泣しました。そんな魅力的な二人をエンガワに紹介したのが僕たちの交流の始まりです。エンガワの林知亜季が、季節と真司の友情関係に興味を持ち、二人に取材をして、当て書きで脚本をつくりました。初稿が完成した段階でエンガワメンバーが合流し、脚本を読んだ僕は「もっと脚本を練って、準備に時間をかけるべきだ」と慎重な意見を出しました。長編映画は簡単じゃないし、焦って撮る必要はない。すると「これは今の僕たちじゃないと撮れないんです!」と季節たちの熱意に押され、強行突破で撮影を行うことになりました。

 物語は稔(藤原季節)と親友の岳広(義山真司)が、家出中の女子高生・桜子(鈴木セイナ)に出会うところから始まります。それぞれ違う家庭環境で育った若者三人は、どうしようもない日々を送りながらもがき、ぶつかり合い、優しさが交差する。一見ありふれた青春映画のような内容ですが、不思議と“親の視点“を感じてしまうのが本作の魅力。わかりやすい目印はないけれど、寂しい時、傷ついた時、笑い合いたい時に帰れる場所がある、そんな情景の映画になっています。僕は完成した映画を観て、季節たちの言葉を思い出しました。やっぱり“今しか撮れない映画”だったのかも知れません。映画も人間関係も、一期一会ですからね。

 今回の特集上映で『東京ランドマーク』は数回上映されますが、それ以降の上映予定は今のところありません。たくさんの人に出会ってもらいたい映画だから、出来ればもっと長く、他県の映画館でも上映されたら嬉しいです。

 エンガワも季節も真司も、みんな仕事が無くうだつの上がらない20代に出会った仲間たち。“いつか自分たちで作った映画を劇場で流すんだ!”と夢見ていました。そんな仲間と作った『東京ランドマーク』が公開される事になった今は、恥ずかしさもあるけど、きっと人生に数回しか訪れない至福の時なんだと思います。夢しか持ってなかった20代が報われた。この映画は、僕にとって青春の集大成です。

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。現在、ドラマ「彼女たちの犯罪」(読売テレビ・日本テレビ系)が放送中。

Engawa Films Project
エンガワフィルムズプロジェクト|映像製作集団
2008年に柾賢志、毎熊克哉、佐藤考哲、林知亜季で結成。全員で企画と制作を進行し、実験的な映像活動を行っている。撮影と監督は主に林が担当。2011年に原宿CAPSULE(旧:KINEATTIC)にて『はじまりの唄』を自主上映。2012年ショートショートフィルムフェスティバルにて『VOEL』が上映される。2013年からYouTubeチャンネルにて『Engawa Times』を開始。

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)

『東京ランドマーク』
公開 / 9月8日(金)〜9月21日(木)の期間中、テアトル新宿
脚本・監督 / 林知亜季
出演 / 藤原季節、鈴木セイナ、義山真司、浅沼ファティ、石原滉也、巽よしこ、西尻幸嗣、幸田尚子、柾賢志、佐藤考哲、西山真来、中山求一郎、大西信満
制作 / Engawa Films Project

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DOKUSOマガジン9月号(vol.24)、9月5日発行!表紙・巻頭は井浦新、センターインタビューは門脇麦!

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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