田中大貴監督×楢葉ももな×芳村宗治郎 対談:シリアルキラーがラブストーリー!?衝撃作『PARALLEL』に迫る

たまい支配人

DOKUSO映画館でも大人気配信中のヒーロー映画『FILAMENT』から数年、新鋭・田中大貴監督が今度は“傷を抱えた少女”と“アニメの世界に行きたい殺人鬼”の恋愛模様を描く異色のスプラッター×ラブストーリーで、新たな衝撃作を生み出した。新作『PARALLEL』について、田中監督と主演の楢葉ももなさん、芳村宗治郎さんと対談喫茶してきました。

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たまい:本日はお時間ありがとうございます!ヒーローとヴィランが存在するヒーロー映画『FILAMENT』から数年、新作『PARALLEL』では明確なヒーローがいない作品となりました。『PARALLEL』はどう生み出されていったのでしょうか?

監督:『FILAMENT』が「沖縄国際映画祭」で「審査員特別賞」という賞をいただきまして。副賞として長編映画をサポートしていただき製作するという企画があり、それで作ることになったのが『PARALLEL』なんです。
審査員長をされていた中江裕司監督と脚本もディスカッションしながら進めていったんですけど、『FILAMENT』のヒーローの部分も良いけど、もっと悪の部分、闇の部分を観たいとすごく言われて。学生時代からヒーローものをいろいろ考えてきた中で、悪側を考えたのが初めてで。闇の方から描いてみようかなというのがきっかけですね。

たまい:描いてみてどうでしたか?

監督:脚本はすごく苦しかったですね。どうしても人間の醜い部分や苦しい部分にいろいろ向き合ったうえで物語をつくり、それぞれのキャラクターの終着点がどうなっていくのか考えていかないといけないので。経験者の方のお話やドキュメンタリー映像・記事なども読み込んで。自分の中でイメージを膨らませて、リアリティを持って向き合うのはすごく苦しかったですが、その苦しさをどうフィクションの力で少しでもプラスに変えていけるのかというのが今回の一番の戦いなのかなと思っていたので。
多分、演じている人はもっとつらいところがたくさんあったと思うんですけど。

たまい:楢葉さんが演じた「高宮舞」は、幼いころから両親に虐待を受け、その後も不安定な生き方をしている女性ですが、演じてみていかがでしたか?

楢葉:撮影前からあまり楽しくない生活を送ろうと思って、家に引きこもっていたので、一時期すごく暗い性格になりました。もともとは明るいんですけど。「舞」だったらどう考えるかと暮らしていたのもあるし、私もドキュメンタリーなどをたくさん観ていたのもあって、そうしたら撮影期間もずっと暗くなっていって、撮影が終わってからやっと解放されました。

監督:現場は皆で和気あいあいとやっているんですけど、その感じで演じるには難しいキャラクターなんですよね。なので、演じる前にはお一人で集中するとか、あえて話さないようにする部分もあったりしたというのはおっしゃってましたよね。

楢葉:なんかオーラがでちゃうと思うんです、ハッピーオーラが。それを消すためにシャットアウトしていました。

たまい:芳村さんは二作連続の出演になりますけど、もともと監督と大学のお知り合いなんですか?

監督:僕が大学4年の卒業製作で『FILAMENT』をつくろうとしているときに1年生で入学してきて。「清志」役にはまる人を探していて、大学の各学年の演技コースのカタログがあるんですけど、「この子いいかも」と思って連絡して食堂にきてもらって脚本を読んでもらいました。本当にスケジュールがやばかったので、今読んで出られるか決めて欲しいと。それで「わかりました」と引き受けてくれたんだよね。

芳村:悪役が新鮮だったのでやってみたいなとすぐに思ったんですけど、やってみてまさか炎の中に突っ込んだりとかがあるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしました。まさか直火でいくとは思っていなかったので。

監督:実際の火って、煙がすごくて。もちろん危険でもあるので、1カット撮るごとに火を消して煙を排出しながら。皆、煤だらけになりながら撮りました。

たまい:芳村さんは、そこから引き続いて、また『PARALLEL』に悪役として登場することになるんですね。

芳村:監督が同じだからか分からないですけど、近いところがあるというか、だからやりやすかったですね。どういうものを求められているか多少なりとも分かっていたので。あとはヒーロー側ではなかったので…。

楢葉:本当は、「ヒーローがやりたいです」って訴えていたらしいです。

芳村:ああ、そうなんですよね。『FILAMENT』を上映した後かな…。

監督:上映の舞台挨拶のタイミングで、司会の方に「次はどんな役をやりたいですか?」と振られたときに、「ヒーローがやりたいです」と答えていて。

楢葉:また悪役。

監督:次はもっと殺人鬼に。

芳村:ヒーローではあるのかもしれないですけどね。例えば、戦争であってもどちらも自分の正義を掲げているというじゃないですか。それと一緒で、自分で信じているものがその人の中では一番なわけで。だから、『FILAMENT』では悪をやりたかったんですね。「清志」は主人公(ヒーロー)に倒されることを望んでいたから。でも、『PARALLEL』の「前田美喜男」は悪になろうという意識がなくて、心の中では正義だったというか。

楢葉:撮影中に闇落ちしていましたよね、芳村さん。

芳村:そうですね。金縛りにあったりとか幻聴が聞こえたりしたんですよ。

楢葉:役に入りすぎて、頭がおかしくなっちゃった。

芳村:普段から「美喜男」の持つナイフも持ち歩く様にしていたんです。

監督:要望で、普段から持って歩きたいと言ったので、どうぞと。

芳村:使いませんでしたけど、持ち歩いて、たまにカバンからナイフを出してみたり。自分も本当に人を殺しているんじゃないかって、罪悪感が生まれてしまったんじゃないかな。

楢葉:演技ではそのシーンがあるわけだからね。そういう風に感じちゃうかもね。

芳村:作品の中で殺しているというのもありますし、血がピシャッてなるのも実感しちゃうんですよね。

監督:今回は返り血とか、血をたくさん使っていて、その実感がものすごくリアリティにつながったということを撮影現場でも話していて。特に、仮面をつけて、自分が武器を振り下ろした瞬間に返り血がバシャバシャッてかかるのは感触としてとてもリアルだと。

芳村:返り血って、大体がCG合成で作られるじゃないですか。ドラマや映画でも、銃撃とかで撃たれた瞬間の、血が飛び散るシーンはあまり作らないから。

楢葉:直。

芳村:直火に続き、直血。

監督:本当に撮影中、芳村君は大変だったと思うんですけど、スタッフもほとんどいない中で、楢葉さんが「大丈夫?」とかフォローしてくれて、本当にすみませんって感じでした。ただ、二人がどんどんいい関係性になっている気がすると勝手に思っていたりもして。
最後の終わり方も、僕と楢葉さん、芳村君の三人で何度も相談していて。過酷な撮影を乗り越えたお二人だから、あの最後になったのかなというのはあって。お二人にお願いして良かったと思いました。

たまい:出演者以外にも前作『FILAMENT』との共通点として、敵役の集団が両作とも仮面を被っていますが、演出上で意識されている点があるのでしょうか?

監督:大学に入ってから、卒業制作ではヒーロー映画を作りたいと思っていて。実験でいくつか映画を撮ってみたのですが、どうしても学生しか出演しない自主映画において素顔で敵役をやってもらうと難しいことが多くて。「仮面」があると、世界観を観客の方が信じられるのではないかという気づきがありました。
もう一つ面白かったのが、仮面をつけて演じていただくと、素顔のときとは違い、リミッターが外れた演技をされる方が多くて。表情に集中しなくて良いからか、ものすごく生き生きした演技をするようになったんですよ。『FILAMENT』の悪役のみんなが、アドリブの台詞で「こんな悪口よく思いつくな」という罵倒とかしてきて。普段はみんな礼儀正しい人たちなんですけど。それで『PARALLEL』でも採用しようと。

たまい:『PARALLEL』の場合、物語上においても「仮面」が1つのキーワードになっているように感じました。

監督:そうですね。『PARALLEL』は特にですが、二作品とも共通して、芳村君が演じたキャラクターにおいて「仮面」が物語上でも重要になっていて。仮面の下では今どんな表情で話をしているのかとか、観客が想像できる余地が広がるのかなと思って。逆に物理的な「仮面」をつけていないのに、つけている様に生きている「舞」は演じるのがすごく難しかっただろうなと思います。

楢葉:人間みんな仮面をつけて生きているみたいなところもありますよね。

監督:『PARALLEL』では、「美喜男」のようにコスプレの仮面をつけていなくても、実はみんな仮面をして生きているんじゃないかというところは、最初から意識してやりたいと話していました。でも、いま思うと『FILAMENT』でも同じことをやっていたなって思い出してきました。

たまい:最後に、『PARALLEL』をご覧になる方へコメントをお願いします。

芳村:『PARALLEL』は、昨年映画祭で公開し、だんだん劇場公開規模も大きくなっていって、もう既に観ていただいた方もいらっしゃるかもしれません。観ていただいてありがたい気持ちなんですけど、今度は7/21からテアトル新宿で本編内容を追加したものが上映されるので、是非どうなるのか観ていただけたら嬉しいです!

楢葉:私が演じた「舞」は、大きなトラウマを抱えている女性でしたが、どんな方にも過去に傷を負った経験があると思います。心の小さな傷も大きな傷もどんな闇を抱えている方にも、この映画を観ていただくと何かしら思うことがあるのではと思います。そして、舞も舞なりに愛を見つけて「これからどう生きていこう」という気持ちになれたので、本作をご覧になって今後自分にとって何が一番幸せなんだろうとか、自分探しの助けになったらいいなと思います。ぜひ観てください!

監督:今作では「変身願望」を一番大事にしていて。その中で、僕が好きなジャンル映画的要素の中で、芳村君と一緒に今までにない殺人鬼のキャラクターを創り上げた。そこに、三人でものすごく考えたある種のラブストーリーが加わった。「殺人鬼もの」から想像がつかないような「ラブストーリー」に発展していくというところが今作を作っていて一番面白いなと思ったところです。
今作を上映していただくなかで、泣きながら感想を伝えてくれる方もたくさんいらっしゃって。殺人鬼というものすごくバイオレンスさはあるものの、過去に傷を負った人にとって、ある種のヒーロー映画になっているのかもしれないなという気づきがありました。今までの映画祭などでの上映を経て、必ず心に届く人はいらっしゃると確信をもって言えるようになりました。
奥浩哉先生からは「冒頭の殺人鬼がヒーローに映るところに心を掴まれた」というコメントをいただき、自分の中では前作『FILAMENT』でつくった「ヒーロー」と、今作でつくった「殺人鬼」が、無意識のうちに結実していたんだなと思えた。ぜひ『FILAMENT』も観ていただくと、より今作がどういう存在なのか、どういう映画なのか解像度が上がり、違った見え方があると思います。どちらの順番でも面白いと思うので、是非二作とも観ていただきたいです。

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映画『PARALLEL』
7月21日(金)より、テアトル新宿にて、1週間限定公開!

http://parallelmov.html.xdomain.jp/

あらすじ
幼少期に両親から虐待を受けていた舞は、その過去の記憶と折り合いをつけられず、親友の佳奈とただ時間を忘れて遊ぶ日々を過ごしていた。ある日、舞はアニメキャラクターのコスプレ姿で殺人を繰り返す、コスプレ殺人鬼に遭遇する。不思議と舞に興味を惹かれたコスプレ殺人鬼は自分の正体を隠し、舞に近づいていくのだった。
舞は心の傷を、殺人鬼は自分の本当の姿を隠しながらも、二人は次第に仲を深め、見えない"何か”によって強く惹かれあっていく。しかし、お互いが隠している本当の姿を知ることは、別れを意味していた。

田中大貴(監督)
1994年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科監督コースを卒業し、現在はフリーランスの映像ディレクターとして活動中。大学の卒業制作として制作したヒーロー映画『FILAMENT』が、沖縄国際映画祭やカナザワ映画祭で審査員特別賞など、ジャンルの垣根を超えて国内外の様々な映画祭で入選・受賞を果たす。長編初監督作品『PARALLEL』が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021で長編部門グランプリを受賞し、7月21日からテアトル新宿で劇場公開。

楢葉ももな(俳優)
1994年5月17日生まれ、東京都出身。子役から芸能活動を始め、現在は、モデルの活動も行い人気ファッション雑誌『sweet』等で活躍し、数々の広告やCMにも出演中。
The 48 Hour Film Projectで初の主演を飾った『Silet Mind』では、映画製作にも携わり、賞を5つ取る。語学が堪能で、女優として海外進出も視野に入れて日々挑戦している。持ち前の明るさと、少しミステリアスな雰囲気が持ち味。

芳村宗治郎(俳優)
1998年2月1日生まれ、東京都出身。化学メーカークラレのCMやドラマ『スタンドアップスタート』などにも出演。
9月から東京芸術劇場で舞台『ヒトラーを画家にする話』にも出演が決まっている。中学一年で初舞台を踏み、2020年に日大芸術学部を卒業後、本格的な俳優の道に。

たまい支配人 DOKUSO映画館 劇場支配人

DOKUSO映画館の劇場支配人。たまに映画プロデューサー。今年こそ、映画と読書と仕事以外の趣味をつくりたい。

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