映画で繋がる“みんなの場所”「Stranger」 ー ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょうwith花柳のぞみ 2023.6.21
映画アドバイザー・ミヤザキタケルさんが、俳優・花柳のぞみさんと一緒に全国津々浦々のミニシアターを巡り、各劇場の魅力や推しポイントをお届けします。目指すは全国のミニシアター制覇♪
今回は、墨田区・菊川のカフェ併設型のミニシアター「Stranger」にお伺いしました。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大きく形を変えた私たちの日常。その影響は全国のミニシアターにも及び、惜しまれながらも閉館・休館を余儀なくされる劇場もあった。それに加えて、サブスクへのニーズが大いに高まり、「映画館で映画を観る」ということの価値が見つめ直されつつある逆境の中、2022年9月、新たな映画との関わり方を提案するミニシアターが産声を上げた。東京スカイツリーがある墨田区・菊川に誕生したカフェ併設型のミニシアター「Stranger」である。
チーフ・ディレクターを務める岡村忠征さんは、ブランディングデザイン会社を経営し、ブランドのデザインコンサルティングを長年手掛けてきた人物。であるのだが、20代の頃は映画監督を志し、今はなき渋谷のミニシアター「シネマライズ」や東京国際映画祭の事務局員、配給会社や映画・ドラマの制作現場を経てグラフィックデザイナーに転身したという経歴の持ち主。20年にも及ぶデザイナー歴の中で、ブランドのコンサルをするだけではなく、自らのブランドを立ち上げたいと考えるようになり、努力せずとも夢中になれる“映画”を用いて新たなムーブメントを起こしたいと構想。10年ほど前にブルックリンへ訪れた際に体験した、ショップ店員たちのフレンドリーさ。コロナ禍初期に息抜きで訪れた古着屋や花屋、カフェやレコード屋の店員たちと交わした心地良い対話の時間。新橋にある試写室で行われている企画上映「土橋名画座」へ訪れた際に感じた、「20〜30席の映画館だったら自分にも作れるかもしれない」という可能性。映画館へ行き、映画を観て、家へ帰るという、ともすれば誰とも会話することなく終えてしまう現代の映画鑑賞に対する疑問。それらの経験や問題意識が組み合わさり、ふらっと立ち寄れて会話ができる映画館があっても良いのではないかという考えに至り、コミュニケーションが発生する空間としての映画館作りに着手。映画を「知る」「観る」「語り合う」「論じる」、そして「映画で繋がる」というコンセプトのもと、「Stranger」は誕生した。
新潟の「十日町シネマパラダイス」から譲り受けた仏キネット・ギャレイ製の座席が49席。音響はTHX認定機材のQSCスピーカーシステムを採用。「鶴岡まちなかキネマ」から譲り受けた300席規模向けのスピーカーを贅沢に使用している。スクリーンサイズは4.254m×1.78m、GDCテクノロジー社製のデジタルシネマプロジェクターを採用し、コンパクトな劇場ながらもハイスペックな視聴環境を有している。オープンと同時に開催したジャン=リュック・ゴダールの特集上映では、自社で上映権を買い付けるというこだわりを見せるのだが、奇しくも2022年9月16日のオープン3日前にゴダールが逝去。運命めいたものを感じさせる波乱の幕開けとなり、大いに話題を呼んだ。その後も、ブランドン・クローネンバーグ、シャンタル・アケルマン、マルセル・アヌーン、60〜70年代の東映作品など、独自の特集上映を定期的に開催。岡村さんが実際に観てセレクトした新作映画も邦画・洋画問わずラインアップされ、日夜幅広い作品が上映されている。鑑賞料金は一般1700円。若い世代にもっと映画に触れて欲しいという願いから生まれた「U25割引(1200円)」や、近隣住民に向けた「ご近所さん割引(1500円)」など、割引サービスも充実。
既にお気づきの方もいると思うが、劇場名はクリント・イーストウッド監督・主演作『荒野のストレンジャー』から取られており、「モダン・フロンティア・スピリット」を意識した劇場併設のStranger Cafeでは、中南米やメキシカンをイメージしたフードやドリンクが盛りだくさん。イチオシのブレンドコーヒーは、群馬県前橋にある「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」と共に開発したコーヒー豆を使用しており、スタッフは皆40時間ものバリスタ研修を受けているという徹底ぶり! カフェ併設型のミニシアターとは言いつつも、ミニシアター併設型のカフェと言っても過言ではない。カフェのみの利用も大歓迎とのことなので、墨田区・江東区周辺にお越しの際や、東京観光でスカイツリー(劇場からバスで15分)や東京都現代美術館(劇場からバスで5分)へお越しの際には、ぜひお気軽に立ち寄ってみていただきたい。映画を観ずとも、コーヒーを飲みながら気さくなスタッフと、時には居合わせたお客様も交えて談笑してみるのはいかがでしょう。また、ゲストを招いてのトークイベントのみならず、上映作品にちなんだ楽曲をチョイスしたDJイベント、ブックショップやヴィンテージ古着店とコラボしたポップアップ販売、インド映画上映時には劇場近くのインド料理屋とタイアップしてインドカレーを提供したりと、「Stranger」という場所が文化の発信拠点となるよう、さまざまなイベントを積極的に開催中。
映画館という枠組みに囚われることなく、気軽に立ち寄ることのできる“みんなの場所”を目指す「Stranger」。新たなフロンティアを確立・繁栄させたその時、よそ者(Stranger)はよそ者ではなくなり、唯一無二、なくてはならない存在へと形を変える。これからますます発展を遂げていく「Stranger」の歩みを体感すべく、ぜひ“ふらっと”立ち寄ってみてください。それでは、次のミニシアターでまたお会いしましょう♪
ここからは、花柳のぞみが「Stranger」の見逃せないところをご紹介します。題して「はなやぎのビビッとポイント!」
1. 入ってすぐ目につく鮮やかなブルー! ここでフライヤーを見るも良し、映画を語るも良し、Strangerオリジナルのコーヒーを飲むも良し、上映前の談笑の場にぴったりです◎
2. 館内の所々にある木の存在。あたたかくて、なんだか懐かしくて、安心する。場作りを大切にするStrangerの想いが、一つひとつの家具に宿っています。
3. 大興奮ー!! 自由帳だって!!! 私こういうの大好きなんです♪ お客様からのメッセージの一つひとつにStrangerからのお返事も……。
4. 外のカフェスペースに置いてあるサボテン。よーく見てみると『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のイラストが……! 可愛すぎる。隠れミッキーを見つけた気分♪
花柳さん、ありがとうございます! 「Stranger」にはまだまだ魅力的なところがたくさんあるので、ぜひみなさんも探してみてくださいね。次回はどんなミニシアターにお会いできるでしょうか。ぜひお楽しみに♪
ミヤザキタケル
みやざきたける|映画アドバイザー
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweet・PHILE WEBでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。
花柳のぞみ
はなやぎのぞみ|俳優
1995年、秋田県出身。趣味は、カメラとおさんぽ。主な出演作に映画『人狼 デスゲームの運営人』メインキャスト・姫菜役、YouTubeドラマ、TOKYO MX「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」保田紘子役。現在、「NURO モバイル」web CMに出演中。
記事内写真 / 花柳のぞみ
文 / ミヤザキタケル
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」6月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン6月号(vol.21)、6月5日発行!表紙・巻頭は光石研、センターインタビューは山田杏奈!
お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweetでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。