宮﨑優×外山文治 ─何にも染められない、彼女の眼差しの先に 2023.6.19
宮﨑優はまっすぐな女優だ。大器の予感に満ちた眼差しと志を持っている。数多の若手女優の中で周囲の独創的な個性に戸惑い、時に翻弄されながらも、彼女はまっすぐさを失わない。「みんな凄く個性があるから私も早く見つけていきたい」と口には出しても絶対に変化球は使わないし使えない。だからこそ遠くない将来、彼女は次代のヒロインに変貌を遂げるはずである。
「本格的にこの仕事を始めたのは高校三年生の時です。それまでは別の事務所の練習生として歌とダンスと演技を学んでいました。でもとても厳しくて、歌が嫌いになってしまって。所属が決まる最終オーディションで正直に『歌が嫌いです』と言ったら……ダメでした」
週末になると上京してレッスンを受ける日々の中で、彼女は新幹線の車窓を眺めながら「頑張ってるなあ」と自らのシンデレラ・ストーリーに酔えたそうだ。しかし実際のストーリーは違った。とんとん拍子で進むはずが、現実は厳しく思い描いた道はなかった。ようやく仕事が決まっても次には繋がらず、女優への階段を登っていける兆しがまるで見えなかったという。無理もない。俳優業は「点」の仕事の羅列であり、「点の集合体」によって「線」が形成されているように見える職業である。「点が線に変わる瞬間」などあるはずもなく、だから彼女は今も「自分は地道に頑張っていくタイプでしかない」と信じている。もっとも、それこそが成功への近道に他ならないことを彼女はまだ知らない様子でもある。
本格的な仕事始めはFODオリジナル連続ドラマ「高嶺と花」のヒロインの友達役。「テレビで知っている人がたくさんいる! すごい‼︎」と目を輝かせたのも束の間、自分の技術に引き出しがなく、現場の期待に応えられずに必死にもがいた記憶だけが残っている。
それから徐々にテレビ、映画、広告等と出演作が増え始めた今も「何か大きいことをやり遂げたら、お母さんに安心してもらえるかもしれない」という期待を胸に秘め、目標を立てることなく仕事に打ち込んでいるのだそうだ。
「目の前以外の仕事やものを考えるのが申し訳ないんです。その心の隙間を、100%全力で今にぶつけたい。私は面白い芝居がしたいし、そういうところに居られるような証が欲しいなと思います」
普段は電話もラインも苦手で家族に連絡下手を心配される日々を過ごしている。
「私は人とは直接会って話をしたいんです。友人との電話も出たい時にだけ出てもらって、私もそうしたい。SNSも最小限に、調べ物も検索するんじゃなくて自分で見聞きしたい。今は人と直接話す機会が少なくなってきている分、温かみが薄く感じてしまう時があります」
何にも染まらず、染められない彼女の眼差しの先に、きっと想像以上の未来が待ってるはずである。私は最後に「人生で大事なものを5つ教えてください」と質問した。
「楽しむこと。感謝をすること。時間を守ること。セリフを早めに入れること。写真を撮られることに慣れることです」
彼女は、悩むことなく、まっすぐに答えてくれた。
外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国公開中。
宮﨑優
みやざきゆう|俳優
2000年11月20日生まれ、三重県出身。2019年『高嶺と花』で俳優デビュー。2022年『死刑にいたる病』(白石和彌監督)での演技が話題に。2023年はドラマ「往生際の意味を知れ!」(MBS/TBS)や「君が、おにぎり好きだから。」(中京テレビ)、「ながたんと青と -いちかの料理帖-」(WOWOW)などに出演。最新作『まなみ100%』が9月29日公開予定。
撮影・文 / 外山文治
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1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。