『M3GAN/ミーガン』を観て思い出した、ヤバい飲み友だち

折田侑駿

ひとりで飲み歩くのが好きだ。その日の気分に合わせて、自分のペースで酒を愉しむ。とくに初めて暖簾をくぐる店にはなるべくひとりで行くようにしている。それぞれの店ごとに大なり小なりルールがあるもので、まずはこれを学ぶ必要があるし、未開の地(=酒場)では何があるか分からない。とにかく単身で飛び込んでの調査が必要なのだ。そこでは新鮮な出会いもあるだろう。私は『M3GAN/ミーガン』を観て、これまで出会ってきたヤバい飲み友だちのことを思い出したーー。

本作は、制御不能となったAI人形が引き起こす惨劇を描いた恐怖映画だ。交通事故によって両親を亡くした少女・ケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)を引き取ることになった叔母のジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、ケイディの孤独を埋めるため、そして何より彼女を守るため、AI人形の「M3GAN」を与える。ジェマは玩具メーカーの研究者として、この人形の開発に携わってきたのだ。愛する姪のため、自身の職能を発揮する最大の機会である。ケイディとM3GANは誰も立ち入ることのできない関係を築いていくものの、「ケイディを守る」という使命を厳守するM3GANは、やがて少女にとって“ヤバい友だち”に。要は、大切な「オトモダチ」が暴れだすお話なのだ。

「飲み友だち」というのは、いろんな意味で特別な存在である。そこではあらゆる差異が無効化し(そう思っているのは私だけかもしれないが……)、老いも若きもただ「酒を飲む」という行為をともにする同志となる。普段どのような日々を過ごしているのかくらいは聞きあったりするものの、相手の連絡先どころか、本名だって知らないことがほとんど。特定の酒場に行かなければ会えない人々だ。

しかし、ときには本当に気の合う人と出会うことがある。そんな場合の私は相手と具体的な個人情報を開示しあう。そうしてより特別な関係性を築いていくのだ。私の周りには酒好きが多く、飲みに行けば映画をはじめとするさまざまなカルチャーの話を肴に杯を重ねる。話題は尽きず、酒も止まらず、実に愉しいものだ。しかしだからといって、いっぱしの酒飲みとしてもその全員と手を取り合えるのかというと、そういうわけでもない。

私は酒場を営む人々を尊敬し過ぎるがゆえ、どうしてもシリアスになってしまいがちだ。その店の空気やリズムを崩すような振る舞いをツレがすると、いくら友人とはいえ一緒にいるのが恥ずかしくなり、相手に対して怒りの感情さえ沸いてくる。ガマンできずにその場で注意し、しばらく無言の時間が続いたこともある。だから私は基本的にひとりで飲み歩くわけだ。私のこういった酒飲みとしてのマインドやアティチュードを理解してくれる飲み友だちというのはそう出会えるものではなく、とても貴重なのである。

しかし一方でーーいや、だからこそというべきか、「真の飲み友だち」というのは危険でもある。私がほかの誰かと飲んでいると知れば嫉妬めいた感情をチラつかせてきたり、誘いを断っただけで烈火のごとく怒り狂ったり。『M3GAN/ミーガン』を観た夜の晩酌時に、私はこのような人々のことを思い出していた。たびたびアルコール関係の問題を起こす、こんな私が縁を切ってきた人々。付き合い方を誤れば、命に関わることだってあるのだから恐ろしい。けれどもやはり、誰かと一緒に酒を飲むことができるというのは素晴らしいことでもある。最後に有名な歌をもじって結びとしたい。

「飲もうよ」と話しかければ「飲もうよ」と答える人のいるあたたかさ

『M3GAN/ミーガン』
監督:ジェラルド・ジョンストン
公開 / 全国公開中
配給:東宝東和
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折田侑駿 文筆家

“名画のあとには、うまい酒を”がモットー。好きな監督は増村保造、好きなビールの銘柄はサッポロ(とくに赤星)。

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