のんびりしたい休日に早稲田松竹で出会えた「メイズルス兄弟」の名作【毎熊克哉 映画と、出会い 第6回】 2023.5.12
この連載が始まって第6回目になります。最初にテーマは映画と“出会い”にしようと決めたものの、具体的な内容はいつも思いつきで無計画に進んでまいりました。これまでの連載では、過去に僕が出会った映画や人を中心にお話をさせて頂きましたが、第6回を迎えるにあたり、これからは積極的に“出会いにいく”現在進行形のお話ができたらいいなと考えています……と言いつつ、さてどうしよう。最新作でも観に行くか? うーん、何か違う。誰かに会いに行く? それも違う。今日は休日だからのんびりしたい気分でもある。そうだ、名画座に行こう! まだ知らない映画は星の数ほどあって、行けば名作に出会わせてくれるのが名画座だ。
早めの昼食をとって、今回は早稲田松竹に行くことにしました。最寄駅から徒歩10分。雨のなか映画館に辿り着くと、入り口で傘を閉じる人たちの姿が。僕も傘を閉じて劇場の中へ入るとロビーは大勢の人で賑わっていました。 今週はメイズルス兄弟監督のドキュメンタリー特集で、昼からは『セールスマン』(69年)と『グレイ・ガーデンズ』(75年)の2本立て。“アメリカン・ドキュメンタリーの金字塔!“などと書かれた作品解説が貼られた壁の前には人だかりができていました。これはあとで読もう。1300円のチケットを買って劇場に入りました。この劇場のシートは座り心地が良く、2本分の時間を過ごすにも快適。
メイズルス兄弟(アルバート&デヴィッド)
1本目『セールスマン』は60年代後半のボストンとフロリダが舞台で、高価な聖書を売り歩く4人のセールスマンに密着した作品。貧しい労働者の家庭に売り込みをかけ「買わないと地獄に落ちる」など、様々な売り文句を使って駆け引きをする姿が映し出されている。この作品の軸になっている男ポール・ブレナンは 「俺がもし金持ちだったら~」と陽気に歌いながら営業にまわるが成果を上げることができず、仲間たちから“言い訳の多い奴だ“と笑われてしまう。映画の終盤にポールが「彼らは1ドルも払えないほど生活が逼迫している。売れるはずがない」と哀愁を漂わせたのが印象的だった。
©MAYSLES FILMS, INC
2本目『グレイ・ガーデンズ』はボロボロの屋敷に住む母娘の女二人暮らしに密着した作品。名家の育ち(ケネディ大統領の親戚)で二人とも若い頃はシンガーを志していたが、今は過去にすがりながら歌い合い、罵り合いの生活をしている。愛なのか憎しみなのかもわからない二人の言葉や歌の銃撃戦は強烈で、全く噛み合わないやり取りに劇場では笑いが起きていた。家の中(撮影現場)はメイズルス兄弟とこの二人、つまり男二人と女二人のやり取りにもなっていて、彼女たちが異性を意識しているのがわかるのも面白かった。二人は「一緒にいるのは娘が(母が)心配だから」と個別のインタビューでそれぞれ答える。
『グレイ・ガーデンズ』
「この2本は“ダイレクトシネマ”という手法で作られている」と、壁の作品解説に書いてありました。「カメラとマイクだけ持った軽装備で被写体に迫り、目の前で起きることをそのまま収録できるシンクロ撮影は技術革新だった」と……現代では普通のことですよね。僕は演じることを追求しているけれど、何も意図していない人間の感情の起伏にはなかなか及ばないなと思いました。メイズルス兄弟のことは知らなかったけど、2本ともめちゃくちゃ面白かった! 今度ほかの作品も観てみよう。映画館を出ると雨はやんでいて、近所の飲食店からいい匂いがする。お腹が空いた……映画の余韻に浸りながら一杯やって帰ろうかな。
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『ビリーバーズ』、『そして僕は途方に暮れる』、最新作に『世界の終わりから』。
『セールスマン』
監督 / アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
配給 / 東風+ノーム
©︎MAYSLES FILMS, INC
『グレイ・ガーデンズ』
監督 / アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、エレン・ホド、マフィー・メイヤー
配給 / グッチーズ・フリースクール
文 / 毎熊克哉 撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」5月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン5月号(vol.20)、5月5日発行!表紙・巻頭は宮沢氷魚、センターインタビューは本宮泰風×伊藤健太郎!
お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。