毎熊克哉×小路紘史監督(後編)ー僕らの原点『ケンとカズ』のハードルを越えていきたい

毎熊克哉


撮影 / 角戸菜摘

・『ケンとカズ』のハードルを越えていきたい。──毎熊克哉

・この映画は本当に僕らの原点だね。これがなければいまの自分はない。──小路紘史監督

毎熊「(前回に続き)せっかくだから『ケンとカズ』の話もしようよ。自分達にとって転機となった作品。この映画は短編から始まったよね」

小路「長編版はケン役をカトウシンスケさんに演じてもらっているけど、短編は別の方で。僕ら三人を中心に撮影してた」

毎熊「ひろしがカメラをまわしてたから現場は本当に三人だけ。あんなミニマムな作品だけど、短編の映画祭で評価していただいて嬉しかったな」

小路「“これなら長編にできる”と確信したよ」

毎熊「でも正直、お金もないのにどうやって長編化するんだろうと思ってた」


小路「最終的にどうにかなった感じだよね。お金に関してもそうだけど、母校の学生の方々の協力を得られたり、従兄弟の山本周平が撮影を担当してくれたり。自宅の周りをロケ地にしたり」

毎熊「いろんな人の血の滲むような協力あってこそだよ」

小路「感謝してもしきれない」

毎熊「そういえば、カズ役の決定をずっと保留にして意地悪されてた!」

小路「意地悪じゃないよ(笑)」

毎熊「長編化に際してオーディションを実施したところ、カトウさんがやってきて、“ケン役は彼しかいない”ということになった。その一方、他の役のオーディションも相手役としてずっとカズを演じているのに、正式なオファーをしてくれない。全ての役が決まってから最後に“カズ、やる?”みたいな。そもそもカズ役候補の人はいなかったんだから、どう考えても意地悪でしょ(笑)。でもあの期間中にカズ役を掴んでいけた感じはあったけど」

小路「そういうふうにして役を掴んでいってほしかった。狙い通りです(笑)」


撮影 / 堀弥生

毎熊「少し前に別府映画祭で久しぶりに本作を観た時、“不完全”な良さがある不思議な映画だなと感じたよ。客観的に」

小路「いい意味でスキがあるってこと?」

毎熊「脚本も演技も撮影も全てが荒くてスキが多いけどエネルギーがある。かと言って勢いだけではなくて、建設的っていうのかな。数年を経てようやく冷静に観れた気がする」

小路「たしかに、いま観るとスキの多い作品だと思う。完成したばかりの頃とはまた見え方が違うしね。この違いに、いろんな経験を経た僕らの変化が表れているんだと思う。そういう発見もあるよね」

毎熊「撮影が終わってから公開するまでの間がすごく不安だったのを覚えてるな。劇場も何も決まってなかったし、編集はみんなで意見を出し合ったりして時間がかかった。一年、二年と経つと希望を失いそうになったけど、ひろしは納得するまでポスプロ(編集、音・色調整)作業を続けてた」

小路「東京国際映画祭に入選したのが本当に大きかったよね。ほかの映画祭には立て続けに落ちてしまっていたし。めげずに編集を重ねたことが人生の流れをも変えた。そして公開中はほぼ毎日、舞台挨拶に行ったね。それが一番の宣伝効果になるだろうと」

毎熊「人前に立ち続けるのはめちゃくちゃキツかったけどね! でも他に宣伝方法はなかったし、あの日々は良い経験になったと思う。最初は数人相手の舞台挨拶だったけど、日に日に劇場がにぎわっていくのを肌で感じられて嬉しかった」


撮影 / 堀弥生

小路「関係者の一人ひとりがこの映画を好きでいてくれたことが、あのムーブメントに繋がったんだと思う」

毎熊「カトウさんの活躍も大きかったよね。宣伝活動でも先頭に立ってくれて。この作品を通して彼とは切っても切れない関係になった。自分たちがそれぞれ挑戦し続けるかぎり、ずっとケンとカズの絆がある」

小路「この映画は本当に僕らの原点だね。これがなければいまの自分はない」

毎熊「うん。いまだに初めて出会う人からは『ケンとカズ』って言われるよ。でもそれが悔しかったりもする。ほかにも多くの良作に関わらせていただいているけど、“ここぞ”という時はいつも『ケンとカズ』。だから自分達で作ったハードルを越えていかないといけないのかな。何年経っても忘れられないような強烈な代表作に、また出会いたい」

『ケンとカズ』
監督・脚本・編集 / 小路紘史
出演 / カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節
©「ケンとカズ」製作委員会

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『ビリーバーズ』、『そして僕は途方に暮れる』。最新作『世界の終わりから』(紀里谷和明監督)が新宿バルト9他で全国公開中。

小路紘史
しょうじひろし|映画監督
1986年生まれ、広島県出身。短編映画『ケンとカズ』が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011にて奨励賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭、リスボン国際インディペンデント映画祭など4カ国で上映される。2016年に『ケンとカズ』を長編版としてリメイク、東京国際映画 祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、新藤兼人賞・日本映画監督新人賞など、数々の新人監督賞を受賞。現在、最新長編映画「辰巳」を公開に向け準備中。

文 / 折田侑駿 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)
衣装 / シャツ¥30,800/Ohal<問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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