とんでもないものを観たー『淵に立つ』の衝撃を超えるものは未だにない【水石亜飛夢の映画ノート page.9】 2023.4.25
水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。休載となる最後の作品は深田晃司監督の『淵に立つ』です。一番好きな映画と言い続けている本作について、深田監督との対談振り返りエピソードとともにご覧ください。
『淵に立つ』
監督・脚本・編集 / 深田晃司
出演 / 浅野忠信、筒井真理子、太賀、古舘寛治
©2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
あらすじ
郊外で小さな金属加工工場を営み平穏に暮らす夫婦と娘の前に、夫の旧い知人で前科者の男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、皮肉な巡り合わせにより男の消息をつかめそうになるが、夫婦は再び心の闇と対峙し、互いの抱えてきた秘密があぶり出されていく…。
一番好きな映画と言い続けている『淵に立つ』
深田晃司監督のワークショップに参加したことがきっかけで、試写会のご案内をいただいたのが本作との出会いです。上映が終わった後、席を立てなくなるという経験を初めてしました。「とんでもないものを観た」という、その衝撃を超えるものが未だにないくらいです。厳密には“好き”という感情とも違いますが、深く印象に残っているので、一番好きな作品として『淵に立つ』をあげています。観終わった後に「あれってなんだったんだろう」と、考えている時間がすごく長くて。劇場を出た後でも考えさせられるのがすごい、と感じたのが第一印象です。
深田監督とは以前対談をさせていただき、その時に「100人いたら100人が違う感じ方をするようにしたい」というお話をされていました。決定的なシーンが描かれず、観る人の想像力に委ねられる部分が大きいんですよね。僕はあまり考察するタイプではないですが、何度も見返すうちに「こうなのかな?」と自分なりの解釈が生まれる部分はありました。例えば、古舘寛治さん演じる鈴岡が、浅野忠信さん演じる八坂に対し、パワーバランスでの弱さを感じていたんだろうなとか、劇中のある出来事によって、それが対等になったと感じて態度が変わったのかも、と深層心理のようなものが少しずつ見えてきたように思います。描かれていない背景をどう捉えるのか、本作を観た方の感想が気になります。
板挟みや空回り……自分が輝いていると自覚する役
鈴岡の家に居候することになった八坂は、不器用ながらも人のよさを感じさせる言動で、いつしか家族の中に溶け込んで行きますが、それが豹変した時に物語が大きく動きます。一見、二面性と捉えられるような変化に見えますが、人って誰でも多面的だと思うので、極端な部分を切り取ったらそう見えるのかな、と思うんです。例えば僕も家族の中にいる時と、先輩といる時、友達といる時では違う顔をしているでしょうし。凶悪な殺人鬼ではなく、八坂のような普通っぽいのに罪を犯している役というのを、いつか演じてみたいです。でも、筒井真理子さんが演じる奥さんと八坂の間で居づらそうにしている鈴岡のような役も魅力的ですよね。僕は振り回されたり、板挟みにされたり、空回っているような役を演じている時に輝いている自覚があって……(笑)。近々、そういう作品に挑戦できそうなので楽しみです。
監督との対談を振り返って
深田監督との対談から2年ほど経ちます。あれから多くのお仕事を経験してきた中で、深田監督がおっしゃっていた“必要なノイズ”について意識する機会が増えたように思います。ノイズが許されない現場もありますし、一方では、こうやってみようとトライできる現場や、ベテランの方が絶妙なあいづちを入れている姿を見て感服することも。今は津田寛治さんとご一緒させていただいているのですが、その技術を間近で感じています。昔の自分だったらわからなかった部分にも気づきが生まれているので、効果的に芝居に生かせるようになりたいです。
連載を振り返って「幸せでした」
監督と対談させていただいた「トーク・ザ・シネマ」から、読者の方にもご協力いただいた「お悩み相談」を経て、「水石亜飛夢の映画ノート」と続いてきた連載ですが、振り返ってみると、映画のことを考える時間が増えたし、言語化することで自分がこういう風に考えていたんだな、と見えてくることもあって、映画をより好きになる楽しい時間でした。それに、水石亜飛夢という役者を知っていただけるきっかけにもなり、幸せな連載でした。これまで連載を読んでくださったみなさま、ありがとうございました!
撮影 / 西村満 文 / 大谷和美 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)
衣装 / シャツ¥26,400/VUy(JOYEUX)、ワイドパンツ¥26,400/VU<問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」4月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン4月号(vol.19)、4月5日発行!表紙・巻頭は池松壮亮、センターインタビューは細田佳央太!
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1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。