森田想×外山文治 ─忘れることのできない苦くて甘い記憶が残る

外山文治

彼女は戦ってきた顔をしていた。森田想さん、23歳。『放課後ソーダ日和』『アイスと雨音』『タイトル、拒絶』その他数多ある出演作の中で、常に強烈な存在感を示す新進気鋭の女優である。彼女が残す印象はまるで心を噛みつかれてできた歯形のようだと私は思っていた。今回の対談はその理由を紐解いていくようなものになった。

「小学一年生で子役事務所に入りました。撮影現場に行けばお菓子があって、みんな優しかった。想ちゃん凄いねって褒めてくれるんです。それが学校よりも楽しかった。芸能活動以外の習い事はしていなくて、気づいた時には周囲も芸能関係者ばかりになっていたし、私が辞めたら誰も居なくなるかもしれないから奮闘してました。楽しかったけど普通に戻れなくなった。でもそれが私の日常だし常識でした」

未来の映画界を担う俳優との対談の中でも異質に感じる、彼女の言葉は若くしてすでにプロフェッショナルな場所を生き抜いてきた証言そのものだった。好きな俳優は?どんな映画が好き?将来は誰と共演したい?ーーそんな戯れの質問はもはや野暮でしかない。森田想さんはとっくに表現者として戦いの渦中にあるのだ。高校も芸能コースを選択した。輝く青春の日々の中で、しかし教室の中は誰もが薄皮一枚のライバル意識を持っていたはずだ。

「誰かが休むと「昨日は何のお仕事だったの?」と言われるんです。休みが続くと嫌われる。ヒリヒリしたところでもありました」

俳優として最激戦区でもある20代女性の中で彼女がすでにオリジナリティを獲得しているのは、長い間、熾烈な状況に身を置いてきたからこそだろう。

最新作『わたしの見ている世界が全て』ではベンチャー企業に勤め、目標のためには手段を選ばない主人公を演じている。聡明で家族や周囲を出し抜く“生意気さ”が魅力のヒロイン像だが、しかしこれがまた魅力的なのである。

「面白い俳優さんばかりで楽しい現場でした。私の役柄は性格に難ありで誰かを見下さないといけなくて……役に引っ張られてツンケンしてたかもしれませんが、それでも皆さん優しかったし、沢山フォローしてくださいました」

実際に社会人を経験していないことで、会社員のヒロインを演じることに不安もあったというが、どうしてハマり役だと言える。俳優とは役を通じて自分が生きてきた道のりを証明する仕事だ。今回演じた遥風という役柄にしっかりと森田想の足跡が見える。また彼女の芝居へのアプローチは独特で、役柄の声の性質を決めて人格形成をするのだそうだ。声から湧き上がるイメージを自分自身に付け足していくから、誰かを演じる行為にあっても自分を見失うことはない。

「だからこそ、いつか原作ものを演ってみたいですね。すでに架空のキャラクターが出来上がっていて、見せるべきものがはっきり存在する役にトライしてみたい。自分とはまるで違う役柄に、自分の殻を破って挑戦してみたいです」

彼女は戦いの日々を歩いていく。誰かに褒めてもらいたいという思いは変わらないそうだ。だから認めてもらえる時も悔しさに唇を噛む時も、皆よりもう少しだけ頑張ってみる。私達の心についた歯形は彼女の存在証明のようなものだ。忘れることのできない苦くて甘い記憶が残る。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国公開中。

森田想
もりたこころ|女優
2000年2月11日生まれ、東京都出身。松居大悟監督が手掛けた映画『アイスと雨音』で初主演を果たし、河瀨直美監督の『朝が来る』、NHK連続テレビ小説「エール」など、若手演技派女優として数々の話題作に出演。2022年に、映画『わたし達はおとな』などに出演。2023年出演、映画『レジェンド&バタフライ』は現在公開中。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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