『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』×細田佳央太さん【DOKUSOマガジン】

DOKUSOマガジン編集部

作家・大前粟生による同名小説を、『眠る虫』の金子由里奈監督が実写化した『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』。とある大学の「ぬいぐるみサークル」を舞台に、若者たちの心の交流を通して、現代における“やさしさ”とは何かを問い直す作品だ。これが初の単独主演作となる細田佳央太は、「特別な作品になった」と感じているという。そんな彼に、本作の制作の裏側と現在の心境を語ってもらった。

この映画があることが、誰かの気づきの手助けになれば嬉しい

──出演が決まった際の心境を教えてください。

「主人公の七森役は誰がいいかとなったときに、金子監督が僕の名前を挙げてくださったようです。まずオファーをいただいて、脚本を読んで、監督にお会いして。そこで出演が決まるという流れでした。これって、これまでの僕の俳優活動の中ではあまりないパターンなんです。基本的に出演が決まってから脚本をいただくので。本作のような繊細さを持った作品に出演したいとずっと考えていましたし、いまのこの時代にこういったメッセージ性の強い作品が必要だと感じていました。そんな作品の主演として僕の名前を挙げてくださったのが嬉しかったです」

──脚本を読んでどんな印象を抱きましたか?

「日常生活を送る中で、違和感を覚えることが多々あります。社会の“常識”や“普通”とされているものが当たり前に存在していることに対する疑問です。みんなは感じないのかなって。だからこの作品に出会って、自分は間違っていなかったのだと思えました。ジェンダーの問題であったり、言葉の問題であったり。“しゃべる”というのは本作のテーマの一つでもありますからね。いかに言葉が力を持っているのか。たった一つの言葉で、僕たちは誰かを傷つけてしまうし、自分の属性が誰かに対して加害性を持ってしまうこともあります。脚本を読んだことで、“自分だけじゃないんだ”と思えましたし、実際に作品づくりに参加して以降、“仕方ない”でまかり通っている物事に対してより疑問を抱くようになりました。参加する作品や演じる役を通してこういった問題提起をできるのは、この仕事の特権だと思います」

──七森剛志というキャラクターにはどんな印象を持ちましたか?

「彼はあまりにも優しくて繊細すぎる人です。“優しい”というのは性格的なものだけではありません。もっと根本的な部分というか、七森の人格を形成しているところです。でも、“優しい”という言葉を使い慣れすぎていて、この表現が正しいのか正直分かりません。言葉って使えば使うほど、本来の意味が軽くなっていく気がするんです。なので“優しい”と表現したことでどれだけ伝わるか不安ですが、それでも彼は優しく繊細です。僕はここまで繊細になることはできません。いまの社会、彼ほど繊細だと生きづらいはずです。繊細すぎる人々が生きやすくなる社会ではなく、それが当たり前だとされる社会であるのが理想ですが、そうなるのにはまだ時間がかかるはず。七森の気持ちは分かるものの、僕に何がしてあげられるのだろうかというもどかしさを感じました。七森を演じるうえで特別に取り組んだことはありません。ただ、彼が傷つくときには自分も傷つかなければならないと思っていました。それくらい僕が七森として生きなければ本作は成立しません。小手先の技術で表現しようとすれば破綻しますし、そもそもこの作品をやる意味がない。その一方で、この役を生きることは危険でもあります。しんどいキャラクターですから。まさに綱渡り状態でした」

──金子監督との初タッグはいかがでしたか?

「監督が金子さんだからこそ、この密度の作品ができあがったのではないかと感じています。金子さん自身、なんとしても自分が映画化するんだという強い想いを持っていたようですし、何より原作への愛が深い。だからこそ、本作が世に放たれるのは重い一発になるのではないかと思います。金子さんご本人も、とても繊細で愛情深い方です。この世の中をどうにかして変えられないか、生きづらさを感じる人々が少しでも楽になる社会にできないかということを考えています。彼女とのやり取りでもっとも印象に残っているのは、“この映画で革命を起こしたい”と初対面時におっしゃっていたこと。それを耳にして、“ついていこう”と思いました。あと、クライマックスのあるシーンの撮影中に号泣していたのを鮮明に覚えています。作品を通して同じものを共有できている安心感がありました。この映画を撮るのが金子監督で本当によかったです」

──本作を経て、いま何を思いますか?

「日常生活の中で見落としがちなものって、どうしてもありますよね。それに気づくのはなかなか難しい。なぜなら無意識のうちに見落としているから。そもそも、本作に登場するような人々の存在が視界に入っていない人もいると思うんです。だからこの映画があることが、誰かの気づきの手助けになれば嬉しいですね。辛いときには辛いと言っていいし、それは悪いことじゃない。そう観客の方々に届いたらいいなと。僕は自分に甘いので、いつもしんどいと言います。でもそれでも、無理をして“大丈夫”と言わなくちゃいけない瞬間もある。なのでこれまで以上に、大丈夫じゃないときには“大丈夫じゃない”と言うようになりました。観てくださる方にもそれが伝わったら嬉しいです。本作は僕にとって特別な作品になりました」

細田佳央太
ほそだかなた|俳優
2001年12月12日生まれ、東京都出身。2019年に1000人越えの応募者の中から抜擢され、石井裕也監督作・『町田くんの世界』にて映画初主演を務める。2021年には映画『花束みたいな恋をした』『子供はわかってあげない』、ドラマ「ドラゴン桜」(TBS系)「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ系)などの話題作に出演。2022年は「もしも、イケメンだけの高校があったら」(テレビ朝日系)にてドラマ初主演を務める。その後も様々なドラマ・映画に出演。2023年大河ドラマ「どうする家康」にて主人公徳川家康の息子役・徳川信康役を演じることが決まっており、夏には舞台「メルセデス・アイス」にて初主演が控えている。

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
監督 / 金子由里奈
出演 / 細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ、細川岳、真魚
公開 / 4月14日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント 他
©映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

あらすじ
“わたしたちは全然大丈夫じゃない。”
新世代が紡ぐ、やさしさの意味を問い直す物語。 “恋愛を楽しめないの、僕だけ?” ―京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」を舞台に、“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森、七森と心を通わす麦戸、そして彼らを取り巻く人びとを描く。

撮影 / 角戸菜摘 取材・文 / 折田侑駿 ヘアメイク / 菅野綾香 スタイリスト / 岡本健太郎

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」4月号についてはこちら。
DOKUSOマガジン4月号(vol.19)、4月5日発行!表紙・巻頭は池松壮亮、センターインタビューは細田佳央太!

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