“自由な表現”のためのミニシアター「シネマハウス大塚」を訪問! ー ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょうwith花柳のぞみ 2023.2.14
映画アドバイザー・ミヤザキタケルさんが、俳優・花柳のぞみさんと一緒に全国津々浦々のミニシアターを巡り、各劇場の魅力や推しポイントをお届けします。目指すは全国のミニシアター制覇♪
今回は、“自由な表現”のための新たなスペースとして誕生したミニシアター「シネマハウス大塚」にお伺いしました。
数多のDVDとCDや漫画を買い漁った駅近くのBOOKOFF、まともに打てないくせに挑戦し続けたバッティングセンター、足繁く通った五郎(閉店)・ぼたん・帝旺などのラーメン屋、芝居仲間たちが泊まりに来るたび訪れた大塚記念湯、毎年春になると桜並木が美しい西巣鴨中学校前の通りetc…、そう、僕はかつてその街に住んでいた。
俳優を志しながらも鳴かず飛ばずで、漠然と日々を過ごし、只々映画ばかり観ていた鬱屈とした20代前半の時間を、その街と共に過ごしていた。そして、再開発によって僕がいた2007〜2012年とは大きく様変わりしたその街で、2018年春に産声を上げたのが今回ご紹介する映画館(僕がいた頃にできて欲しかった…)。JR大塚駅北口より徒歩7分、“自由な表現”のための新たなスペースとして誕生したミニシアター「シネマハウス大塚」である。
1968年、学生運動が盛んなその時代に、映画・芝居・デモに打ち込み青春を共に謳歌した6人の高校生たちがいた。
自主映画製作サークル「グループ・ポジポジ」として名を馳せた彼ら彼女らは、映画監督・プロデューサー・編集者など、成人後は別々の道を歩むことになるのだが、定年退職を迎えた後に行われた同窓会にて再会。それぞれが「映画館を作る」という夢を抱いていたことがキッカケとなり、再び道が交わることに。そうして50年来の友人たちの夢と友情とある願いによって誕生した「シネマハウス大塚」。
その幕開けは大島渚監督特集で始まり、これまで多種多様な作品が上映されてきているのだが、映画館の名を冠しながらも多目的レンタルスペースとして貸し出しもされており、ライブ・朗読・演劇・落語・ギャラリー展示・シンポジウムなど、幅広い利用がされている。そこには、どんな主張、どんな意見、どんな小さな作品であっても自由に表現できる創造の場があるべきだという強い願いがあるのだ。
かつて全共闘や全国学園闘争で揺れる激動の時代、自分たちの意見を自由に主張することが難しかった時代で自主映画を撮ってきた皆さんの経験があってこそのこと。それ故、シネマハウス大塚で上映される作品やイベントに特定の色はなく、HPなどで目にできる「どうぞ自由をつかってください」という言葉が示す通り、型にとらわれることのない作品の上映やイベントが日夜行われている(公式HPにイベントアーカイブがあるので、是非チェックしてみてください)。
かつて街道として栄えた折戸通りにあるマンションの1階奥に居を構えるシネマハウス大塚。小ぢんまりとしたロビーには受付のほか、映画のフライヤーや近隣スポットの紹介が貼られた掲示板、2022年に亡くなられた設立メンバーであり代表も務めた堀越一哉さんの遺品となるコレクションなどが飾られている。
取材時にはフライヤーだけ取りに立ち寄るお客様の姿もあり、近隣住民に親しまれている様子が窺えた。そして、ロビーの和やかな空気から一転、一歩劇場へ足を踏み入れると、そのシックで広々とした存在感に驚かされる。
座席は最大56席、イベントに応じて席数や配置を変更可。列ごとに座高を変えた仕様になっているため、平坦な劇場で起こりがちな前席の人の頭部でスクリーンが見えづらい心配もなし。
元々映画館を想定した仕様の建物ではないため、天井は低く、スクリーンの前には大きな梁があり、映写室を設けるスペースがなかったのだが、スクリーンの真下からほぼ垂直に映像を投影できる日本に数台しかないという短焦点4Kプロジェクター「SONY VP-VZ1000」を採用することでクリア。それもこれも、メンバーの一人が建築のプロであったことと、撮影監督・山崎裕氏の監修による賜物である。
今回お話を伺ったのは、オープンと同時にシネマハウス大塚の一員に加わり、創立メンバーとは40歳ほど年齢が離れた劇場管理人の塚田万理奈さん(途中で館長の後藤和夫さんもお越しいただき、写真をパシャリ)。
彼女はぴあフィルムフェスティバルなど数々の映画際で受賞・入選した『還るばしょ』や、田辺・弁慶映画祭でグランプリ含む4冠に輝いた初の長編作『空(カラ)の味』などで知られる若手映画監督であり、何を隠そう僕と同じ長野県長野市出身。共通の知り合い(憩いの場)である長野相生座・ロキシーの皆さんを通して出会った旧知の仲である。
彼女発案の上映企画などが行われる傍ら、10年かけて16mmフィルムで撮影する新作長編『刻』を2020年より故郷・長野を舞台に撮影しており、公開予定は2030年。塚田監督の実体験をベースに、主人公の中学生が大人になるまでの10年を描く物語となっているのだが、実際に中学生の子どもたちが成長するのに寄り添いながら撮影していくため、さながらリチャード・リンクレイターの『6才のボクが、大人になるまで。』を彷彿とさせる。
2019年に制作したパイロット版短編映画『満月』がSpain Moving Images Festivalにて最優秀アジア短編賞を受賞したほか、「刻」を制作する中で子どもたちと2021年に制作した短編映画「世界」がロッテルダム国際映画祭に招待され2023年1月に上映。『刻』完成までまだ7年の歳月を要するものの、その過程や実績を通して期待は高まる一方だ。
塚田監督は言う。映画館は孤独でなくなる場所だと。人それぞれに意見があって、その想いみたいなものを形にするのが表現であり、その表現を届けられる場所が映画館。作品が人と人とを繋げ、表現によって人が人を理解していく。それらの表現を際限なく届けることを使命とし、そんな居場所を作り出した皆さんが美しいと。
さまざまな表現と出逢える場所であり、さまざまな表現を発信することのできる場所でもあるシネマハウス大塚。ここで行われる上映やイベントに触れてみるだけでも良し、自らの想いを届ける場として利用してみるでも良し、どうぞ自由をつかってみてください。それでは、次のミニシアターでまたお会いしましょう♪
ここからは、花柳のぞみが「シネマハウス大塚」の見逃せないところをご紹介します。題して「はなやぎのビビッとポイント!」
なんとこのフライヤーコーナー、ご近所さんがフライヤーをチェックするためだけに、ふらっと立ち寄ることも多いのだとか!街の住人から愛されるシネマハウス大塚です♩
館長さんお手製のシネマハウス大塚付近のMAP。可愛いイラストと一つひとつのお店のコメント付き❤️大塚への愛を感じます!
壁紙をご覧ください!すごくお洒落〜〜!!この壁があることで、場内が上質で落ち着いた空間になっています。
「どうぞ自由をつかってください」と素敵なキャッチコピーが描かれているのはシネマハウス大塚のフライヤー!自由な表現と創造はこの場から生まれるんですね
花柳さん、ありがとうございます!「シネマハウス大塚」にはまだまだ魅力的なところがたくさんあるので、ぜひみなさんも探してみてくださいね。次回はどんなミニシアターにお会いできるでしょうか。ぜひお楽しみに♪
ミヤザキタケル
みやざきたける|映画アドバイザー
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweet・PHILE WEBでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。
花柳のぞみ
はなやぎのぞみ|俳優
1995年、秋田県出身。趣味は、カメラとおさんぽ。主な出演作に映画『人狼 デスゲームの運営人』メインキャスト・姫菜役、YouTubeドラマ、TOKYO MX「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」保田紘子役。現在、「NURO モバイル」web CMに出演中。
記事内写真 / 花柳のぞみ
文 / ミヤザキタケル
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」2月号についてはこちら。
⇒DOKUSOマガジン2月号(vol.17)、2月5日発行!表紙・巻頭は外山文治監督×岡本玲、センターインタビューは小出恵介!
お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。
1986年、長野県生まれ。WOWOW・sweetでの連載の他、web・雑誌・ラジオで映画を紹介。イベント出演、映画祭審査員、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジェ」など幅広く活動。