板橋駿谷×外山文治 ─俳優・板橋駿谷の圧倒的な存在感を私は何一つ見過ごすことができない

外山文治


あまりにも気になる男なのだ。千鳥風に言えば「ちょっと待てぃ‼」という感じだろうか。俳優・板橋駿谷の圧倒的な存在感。隆起した筋肉、その眼力、そして熱い芝居、私は何一つ見過ごすことができない。私が板橋さんを初めて知ったのは、五年前の小さな映画の上映会でのことだ。僅かな出演時間だったがその佇まいに私の目は点になった。「あの人は何者だろう」と駅へと向かう帰り道、異物感を飲み込めずに戸惑っていた。

やがて時が経ち、全国の人もざわざわと騒ぎ始めた。朝ドラ『なつぞら』で演じた独特の高校生番長役や、映画『サマーフィルムにのって』等の出演で放つ強烈な個性に、誰もが「あの人は何者だろう」と立ち止まってしまうのだった。


「僕の学生時代は全寮制で抑圧されていて、面白いことに枯渇していました。俳優への憧れもあったけど、面白いことを求めてラップばかりやってましたね。リリックを書いて、茨城のクラブで歌ってみたり」

なるほど、やはり「ちょっと待てぃ‼」な経歴。空手部だった思春期に夢中で覚えたラップはいつしか彼の武器となり、演劇の世界で重宝されるようになっていく。しかもギリシャ悲劇をゴリゴリのラップに昇華させ読売演劇大賞を受賞したというのだから、その突破力に唖然とする。彼の口からは原動力として何度も「枯渇」というフレーズが出てきた。

「とにかく渇望がガソリンとなって今に至っています。人を笑わせたい。誰かに楽しんで欲しい。映画やドラマの役は断らない。音楽もやるし落語もやる。喜んで欲しいから」

人を楽しませることがすべてのように話す彼は、いち俳優の枠を超えて全身全霊でエンターテイナーなのだと思う。


「元々は田舎の目立ちたがり屋ですよ。高校生役を頂いても”キター!“と思ってしまう。俺なんて単純で何を考えてるか丸わかりですからね」

とはいえ彼の求める面白さの基準は確かなもので、意外にもアドリブは一切しないという。稽古で積み上げた面白さこそ一番であり、その場の瞬発力での笑いでは満足できぬと新国立劇場で繰り広げられる骨太な舞台戯曲にも真っ向から勝負していく。

「でも本当はね、いつも緊張してるんです。中身は繊細、ガラスのハートでやらせてもらってます。ネットに悪口とか書かれると一発で落ち込むっスから。平気なふりしてますけど」


 最近は、物語の世界にただ居ながらにして存在感を示す術を模索している。観客や製作者たちが板橋駿谷のキャラクターを「欲しがってしまう」ことを認識し応えながらも、今の自分を観客が楽しんでくれている間に次の表現方法を探しているのだそうだ。

「求められるものを背負ったまま変化することは難しいけど、もう一つ先にある自分も知らない自分に出会える金脈だと思っているんです。次の一手を考えて超えていきたい」

そう語る板橋さんは、表現に対して真摯に取り組むプロフェッショナルな男である。


「自分は映像業界的にはまだ駆け出しの役者ですから。『なつぞら』で注目して頂いてから三年。今こそ業界に名前を知ってもらうチャンスなんです。今、勝負しているんですよ」

面白いことだけを探して上京した板橋さん。渇望はまだ満たされてはいないようだ。いつかガイ・リッチー監督の映画に出たいと野望を語る彼が満たされることは、果たしてあるのだろうか。

どこまでも気になる男なのである。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。最新作『茶飲友達』が全国順次公開中。

板橋駿谷
いたばししゅんや|俳優
1984年7月1日生まれ。福島県出身。劇団「ロロ」「さんぴん」に所属し、映画・テレビ・舞台・CMと幅広い分野で活躍。主な出演作に、『サマーフィルムにのって』(21)、『マイスモールランド』(22)、『異動辞令は音楽隊』(22)、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)、舞台オールナイトニッポン55周年記念公演「あの夜を覚えてる」(23)などがある。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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