ブルース・リーが教えてくれたこと『燃えよドラゴン』【毎熊克哉 映画と、出会い 第3回】 2023.2.13
前回に引き続き“原体験”について語りたいと思います。子供のころから映画が好きで、レンタルビデオ店には毎週通っていました。旧作は1本100円で借りることができたし、長時間いても怒られないので最高の遊び場でした。そのころ手に取った1本の映画が『燃えよドラゴン』。僕はジャッキー・チェン世代で、お店の棚に並んでいるジャッキー作品は制覇していました。次は何を借りようかなと悩んでいたら、隣にブルース・リーのコーナーがあったんです。いつものようにアクション映画を楽しむつもりでビデオを差し込んだのですが、そこに映っていたのは恐いほどの覇気を纏った男の姿でした。
『燃えよドラゴン』
ブルーレイ 2,619円(税込) / DVD 1,572円(税込)
発売元 / ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元 / NBC ユニバーサル・エンターテイメント
Enter the Dragon © 1973, Renewed © 2001, Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
映画の冒頭、ブルースが「私を蹴れ」と弟子に命じるシーンがあります。弟子は蹴りを放つが、何度やっても怒られる。そして「月を指差すのと同じだ。指先を見ていても栄光は得られんぞ」とブルースは教えます。子供の僕には初見で理解するのが難しかったのですが、学校では教わらない“何か重要なこと”だというのはわかりました。
これは後から知ったことですが、『燃えよドラゴン』はブルースの武術と哲学が色濃く盛り込まれた作品です。人と対峙している時の間、顔、言葉、技の数々に、今まで感じたことのない緊張感を覚えました。“この人は俳優じゃなくて、本物だ!”。返却日ギリギリまで何度も観ました。
Enter the Dragon © 1973, Renewed © 2001, Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
その後はブルースの映画やドキュメンタリーを漁りはじめました。『ドラゴンへの道』はコメディ要素もありながら、チャック・ノリスと繰り広げる長い闘いはまさに死闘。この作品は彼のアクションの中で一番好きです。
笑ってしまったのは『死亡遊戯』で、前半はブルースのそっくりさんが演じています。「え、誰?」と肩透かしをくらったのですが、塔で闘うシーンでは本人が登場して躍動する。正直、映画の内容よりもブルースが出てきただけで満足でした。好きな俳優はたくさんいますが、出てきただけで満足感が得られる俳優はブルース・リー以外にはいません。
少し話が逸れますが、僕は8歳の時に山口県から広島県の小学校へ転校しました。ひどく虐められたわけでもないのですが、言葉も文化も違うし、よそ者扱いをされて居心地が悪かったんです。その時期に出会ったのがブルース・リーで、彼が何かのインタビューで語っていた「心を空にしろ。形を取り去り、無になれ。水のように。水はカップに入れるとカップに、瓶に入れると瓶に、急須に入れると急須となる。流れることも、打ち砕くこともできる。友よ水になれ」という言葉に救われました。広島を離れて上京した時も、俳優として様々な苦難に出会う時も、この言葉が僕の中心にあります。
Enter the Dragon © 1973, Renewed © 2001, Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
大人になってから、ブルースの哲学は老子の影響を受けていると知って老子の本も買いましたし、実は...彼が残した武術“截拳道”(ジークンドー)を習いに行ったこともあります(笑)。『燃えよドラゴン』の対オハラ戦のシーンで見せた早技の仕組みを教わった時はドキドキしましたね。
僕は武術家ではありませんが、ブルースと同じ一人の俳優。高みを目指して頑張っているけれど、道に迷う時や、判断を間違える時があると思います。そんな時に「指先を見ていても栄光は得られんぞ」と教えてくれるはず。『燃えよドラゴン』は僕の人生におけるかけがえのない出会いの一本です。
撮影 / 角戸菜摘 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE) 文 / 折田侑駿
衣装 / シャツ¥33000、パンツ¥28600/ともにANEI <問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」2月号についてはこちら。
⇒DOKUSOマガジン2月号(vol.17)、2月5日発行!表紙・巻頭は外山文治監督×岡本玲、センターインタビューは小出恵介!
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1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。