自分たちと関係ない国の話ではないと痛感『リベリアの白い血』(福永壮志監督のコメントあり)【水石亜飛夢の映画ノート page.7】 2023.2.10
水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。 今回の作品は、福永壮志監督の『リベリアの白い血』です。自分たちと関係ない国の話ではないと痛感した水石亜飛夢さん。福永壮志監督のコメントと合わせてご覧ください。
『リベリアの白い血』
監督・脚本 / 福永壮志
撮影 / 村上涼、オーウェン・ドノバン
出演 / ビショップ・ブレイ、ゼノビア・テイラー
DVD販売中、デジタル配信中
あらすじ
リベリア共和国のゴム農園で働くシスコは過酷な労働の中で家族を養っていた。より良い生活のため単身アメリカへ渡る決意をする。移民の現実を目の当たりにしながらも少しずつ順応していくが、元兵士のジェイコブとの予期せぬ再開により、リベリアでの忌々しい過去がシスコに蘇ってくるのだった…。
タイトルから想像していた内容と実際に観て感じたこと
@OUT OF MY HAND THE MOVIE, LLC
本作のタイトルを聞いた時は、白という色の印象に引っ張られて、雪国が舞台なのかなと思ったのですが、真逆の暑いアフリカの国が舞台でした。そして白い血とは、木に傷をつけて採取する、ゴムの原料となる樹液のことを指しているんですよね。ゴム製品って日常にあふれているけれど、どう作られているかを気にしたことがなかったから、人が手作業で集めていると知って素直に驚きました。外国の情報はテレビニュースでしか知る機会がなくて…。本作のような実情、焦点が当たりにくい仕事と現実も、まだまだたくさんあるんだろうなと思うと同時に、自分たちと関係ない国のお話ではないと痛感しました。
自分の周りから少しずつ波紋を広げていきたい
ゴム農家の貧しい暮らしからの脱却のため、家族を残して単身アメリカに渡る主人公のシスコ。彼のリベリアでの生活はもちろん、アメリカで起きること、ショッキングなシーンもあって、自由に生きることの難しさを思い知らされます。シスコがいい人の顔ばかりではないところも人間味にあふれていて引き込まれました。彼が成功するのかしないのか、映画は絶妙なところで終わりますが、どうか幸せになってほしいと願ってしまいます。
また、こういった作品をきっかけに世界で起こっている貧困を身近に感じて、そこから意識を変えていくことも大切ですよね。僕の話で恐縮ですが、“#Be A HEROプロジェクト”というものを立ち上げ、ひとり親家庭向けの宅食支援を行っています。きっかけは、小さなお子さんのいるファンの方から“生活が切迫して死も考えたけれど、キラメイジャーに救われた”といったお手紙をいただいたことなんです。番組が終わってもヒーローとして何かできないかと考え、様々な方のお力を借りて、僕自身も勉強させてもらいながら活動を続けています。日本には見えづらい貧困が多く、誰ひとり取り残さない社会というのはすごく難しいと思うけれど、自分の周りから少しでも変えていくことができたら、それが波紋のように広がっていくと信じているんです。
世界レベルの監督が撮る映像のすごさを実感
@OUT OF MY HAND THE MOVIE, LLC
福永壮志監督は、世界中から選ばれた六人の若手監督の内の一人に選出されるほどすごい方です。撮影手法やテクニック的なことを僕がいうのはおこがましいですが、取り扱うテーマや視点、映像作品としてのクオリティの高さはもちろん、物語をこんなにもドキュメンタリーチックに見せてくれる作品はなかなか出会ったことがないと思ったんです。もちろん演者さんの力もあると思いますが、登場人物たちの感情を繊細に映しているからか、実際に起こっていることをカメラが捉えているように感じるという…。個人的には手持ち感のある絶妙なニュアンスの映像も好きで、飽きさせない映像に釘付けになりました。
福福永壮志監督からのコメント
『リベリアの白い血』の着想を得たのは、リベリア編の撮影監督で義兄弟の村上涼が制作していたドキュメンタリーからだった。リベリアのゴム農園の過酷な状況の中、逞しくひたむきに生きる労働者達の姿に心を打たれ、NYで移民の映画を作ろうとしていた自分は、主人公の背景を同様の設定にすることに決めた。そうすることで、彼らを取り巻く様々な問題を、自分達に関係のない遠くの国の話ではなく、もっと身近なこととして捉えることができるのではないかと思った。リベリア編の撮影後、NYの自宅に戻った村上涼が重度のマラリアを発症してこの世を去ったことについては、未だに言葉では表しきれない想いがある。その後NY編を撮影して映画を完成させることは、彼の弔いのためにも、残された人間がその悲劇を乗り越えるためにも絶対に必要なことだった。未完成のままだったドキュメンタリーは『Notes From Liberia』という短編ドキュメンタリーとして作り上げ、彼が残した写真や映像作品の数々を ryomurakami.com というウェブサイトにまとめた。芸術作品には制作した人間のあらゆる断片が残るもので、彼の映像や写真も例外ではない。自分の映画監督としての道は村上涼と共に始まった。彼亡き今も共に歩んでいる気持ちで制作を続けている。
福永壮志
ふくながたけし|映画監督
北海道出身。2003年に渡米し、映像制作を学ぶ。2015年に初の長編劇映画『リベリアの白い血』がベルリン国際映画祭のパノラマ部門に正式出品。世界各地の映画祭で上映され、ロサンゼルス映画祭で最高賞などを受賞。20年に発表した『アイヌモシㇼ』はトライベッカ映画祭に正式出品され審査員特別賞を受賞。最新作『山女』を22年東京国際映画祭でワールドプレミアした。
今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」2月号についてはこちら。
⇒DOKUSOマガジン2月号(vol.17)、2月5日発行!表紙・巻頭は外山文治監督×岡本玲、センターインタビューは小出恵介!
お近くに配布劇場が無いという方、バックナンバー購入ご希望の方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。
撮影 / 西村満 文 / 大谷和美 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE)
衣装 / シャツ¥26,400/VUy(JOYEUX)、ワイドパンツ¥26,400/VU<問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464
1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。