服部樹咲×外山文治 ─彼女は今どんな景色を眺めているのだろうか 外山文治監督の「きとらすばい」

外山文治


誰もいない境地でひとり、彼女は今どんな景色を眺めているのだろうかーー。女優・服部樹咲。十二歳の時に映画『ミッドナイトスワン』のバレエ少女・一果役を演技未経験ながらにオーディションで勝ち取り、「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞などを受賞した異例の存在である。

映画界には毎年新星が現れるとはいえ、近年の新人賞は主に二十歳前後の俳優が獲得することが多く、その前後に同世代で共演したり、ライバル関係を築いて切磋琢磨するのが主流である。だから彼女はあまりに早咲きで、他に類を見ない人生を歩んでいると言えるだろう。

「四歳から続けたバレエを辞めようと考えていた頃、知り合いがオーディションを教えてくれて受けました。女優の仕事に興味はありましたが、演技も撮影現場も初めてでした」

錚々たる俳優陣の中でのスタート。当時、芸能事務所にさえ所属していなかった彼女の踏み出した一歩は、あまりに大きなあしあとになった。そこには人知れぬ喜びも哀しみもあるだろうが、だからこそ気になることがあった。いきなり大きな勲章を得た場合、その後どういうメンタルでやっていくのだろうか。


「私は、そこまで深刻には考えなかったですね。怖いということもないし、それよりも今は楽しさが勝ってます。始めた当時は無我夢中で、言われることを一生懸命やるだけでしたが、最近はやりたいことが具体的に見えてきました。そして、今はとにかくいい作品に出会いたいと思っています」

その言葉ひとつひとつが、地に足がついた印象を与える。彼女自身が落ち着いた性格をしているのだろうか。思えば、その後に出演した短編映画2作品の役柄も大人びた、そしてどこか心に影を落とす役が続いたが、それは服部さん自身に近いものなのだろうか。

「いや普段は全然明るいし、うるさいし、お喋りな方ですよ!映画に写っている表情はもちろん自分のものですが、いつもは普通の高校生と同じだと思います」

憧れの女優さんはいるの?

「小松菜奈さん。沢山の表情を見せてくれて好きです。それから韓国のキム・テリさん。韓国ドラマも何回も観ていて、私もいつか出たいなと思っています」

なるほど。確かにその言葉は等身大の十代のものである。ただ彼女、独学で勉強して韓国語をすでにある程度話せるレベルになっているのだそうだ。いとも簡単にそういうことをやってのけるのは、新世代の特徴なのだろうか。夢を夢で終わらせないために、こうも飄々と言語の壁や現実のハードルを超えてくるなんて、その可能性にこちらも胸を躍らせてしまう。


「実はまだ同年代の俳優さんとの共演が多くないのですが、でももう制服を着る役じゃなくてもいいんです。色んなことをチャレンジしたいです」

人とは違うキャリアを進む彼女はおそらく一般的な青春と引き換えに、作品を通じて様々な人生を経験していくのだろう。同年代はこれから「役者をやってみたい」と言い始める。しかし彼女は来年も待機作があるというのだから、まさに唯一無二の存在ではないか。

「沢山の芝居の現場に出たいです。雑誌のモデルも面白いし、歌も好きだし色んなことにチャレンジしたいですね」

服部樹咲さんは、まさに日本映画の未来を託されるべきひとりである。

プロフィール

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。公開待機作に『茶飲友達』(2022年2月)がある。

服部樹咲
はっとりみさき|俳優
2006年7月4日生まれ。愛知県出身。『ミッドナイトスワン』(20)でヒロインを演じ、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。「docomo future project KAZE FILMS」「meiji」などのCM、月9ドラマ「競争の番人」に出演。「GINZA」ではDIORを着用するなどモデルとしても活動。主演短編映画も多く、2023年配信予定のDMM.TVオリジナルドラマ「EVOL」でトリプル主演の1人を務める。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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