実は人前に出るのが嫌いでした ー 『シコふんじゃった。』で思い出すデビュー当時のこと【水石亜飛夢の映画ノート page.6】

水石亜飛夢


水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。  今回の作品は、周防正行監督の『シコふんじゃった。』です。実は人前に出るのが嫌いだったと話す水石亜飛夢さん。本作を観て思い出したこととは? 周防正行監督のコメントと合わせてお楽しみください。


『シコふんじゃった。 4K Scanning Blu-ray』
監督・脚本 / 周防正行
出演 / 本木雅弘、清水美砂、竹中直人、柄本明
¥5,280(税込)
発売・販売元 / KADOKAWA

あらすじ
楽して人生を乗り切ろうとする大学生、山本秋平は卒業単位と引き換えに廃部寸前の相撲部に入部させられ試合に出場することになる。しかし彼が足を踏み入れた相撲の世界には、それまで経験したことのなかった、熱く魅力的な何かがあったのだ!やがて彼は、自分自身のためにシコを踏み始める。

作から感じる武道の精神が長く愛されている理由のひとつ


僕自身がスポーツから離れた人生を送っているので、いわゆる“スポコンもの”というジャンルはあまり馴染みがなく、『シコふんじゃった。』は、この機会に初めて観ました。時代背景は僕が生まれる前ですが、シュールなシーンと真剣なシーン、そしてコメディパートのバランスが絶妙で、観ていて楽しかったです。

相撲は幼少期に祖父と一緒に観ていたので、僕にとっては身近なもの。僕は中学・高校と剣道をやっていたのですが、剣道は一本を取っても、ガッツポーズをすると取り消しになってしまう、大相撲と同じく礼節を重んじる武道なんです。本作では学生相撲ということもあり、思わず喜んでしまう描写がありますが、武道の礼節を大切にしているところを多く感じました。

それが日本人の心に刺さるし、誇りをもって海外に発信できる文化として、30年経って新作が作られるほど、名作として愛され続ける理由のひとつじゃないかと思うんです。新作はまだ未見なのですが、ぜひ観たい!と興味が湧くほど面白かったです!

初は本気じゃなかった剣道後輩からの言葉で変化が…


実は最初から剣道に興味があったわけではないんです。剣道をやってほしいという思いで、父が兄の名前に剣という字を入れたのに、兄は仮入部だけで長く続かなくて。それで「父の思いを引き継ぐのは自分しかいない」と、親孝行のような思いで始めました。

本作の主人公、本木雅弘さん演じる山本秋平も、相撲部に入るきっかけは卒業に必要な単位のため。次第に夢中になっていった秋平のように、僕も楽しくなって6年続け、初段を取得するところまでやりました。といっても、最初からストイックだったわけではなく…。入部して1年後、ものすごく強い後輩軍団が入ってきて「先輩たち、何やってるんですか」と言われて、「後輩からそんなことを言われるなんて恥ずかしい!」と、そこから燃えました。映画『ウーマンウーマンウーマン』では、先輩に本音を言う後輩の役でしたが、本当は言われている側だったんです(笑)。

前に出るのが嫌いだったのにいつの間にか楽しい仕事に


本木さんは秋平を演じた当時、今の僕と同い年なんです! 本木さんと言えば落ち着いた渋い雰囲気が魅力的だと思うのですが、本作ではキラッとした瞳だったり、熱量だったり、すごく真っ直ぐなお芝居をされている姿がかっこよかったです。

あと何と言っても竹中直人さんですよね。現在はもちろんですが、本作でもお芝居が面白くて、何度も笑わされました。そんな竹中さんが演じた青木に、共感せざるをえないところがあります。僕も緊張したりするとお腹や歯が痛くなるタイプなので…(笑)。

だから、昔は人前に出るなんて考えられなかったし、一番嫌いなことだったので、まわしの下にスパッツを履いていた留学生のスマイリーにも通じるものがあるかもしれません。最初は事務所の方の期待に応えたいとか、親にいい報告をしたいとか、誰かのためにという気持ちでしたが、いつの日からか気持ちが変わっていたんです。やっぱり楽しめているからこそ、ここまで続けてこられているんだと思います。

防正行監督からのコメント


撮影 / 下村一喜

とても幸せな映画でした。2019年に閉館した「有楽町スバル座」で、1992年に公開され、最終の上映では、後ろの扉が閉まらない程の超満員。立ち見の一番うしろのお客さんが、前の人の頭越しに見ようとぴょんぴょん飛び跳ねながら笑って見てくれていた姿は忘れられません。

今では想像できないと思いますが、日本映画が殆ど相手にされていなかった時代に、なんとか面白い映画を作りたいと企画しました。前作『ファンシイダンス』に出演してくれた本木雅弘さんを裸にしたら面白いんじゃないか。そんなふざけた発想から相撲に繋がり、偶然にも母校である立教大学に相撲部があると知り、物語が生まれました。相撲部員役のオーディションは、全員裸。肉体的特徴で出演者を決めました。最も難しかったのは、マネージャーとして入部した「正子」が女性であることを隠して土俵に上がるエピソードです。演じてくれることになった梅本律子さんは芸能界とは全く無縁の素人で、一般公募のオーディションに来てくれました。彼女が当時、どれだけの勇気を持って演じてくれたか、それを思うと感謝しかありません。彼女のおかげで特別な映画になったと思っています。

周防正行
すおまさゆき|映画監督
1956年生まれ。東京都出身。『ファンシイダンス』(89)で一般商業映画監督デビュー。学生相撲を描いた『シコふんじゃった。』(92)で第16回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞。『Shall we ダンス?』(96)で第20回日本アカデミー賞13部門を独占。その後も数々の話題作を発表。92年の公開から30年後の相撲部を描くドラマ「シコふんじゃった!」(Disney+で配信中)では総監督を務める。

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水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

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