カトウシンスケ×外山文治 ─ いつの間にか知っている、不思議な男 外山文治監督の「きとらすばい」

外山文治


外山文治監督が、これからの映画シーンで活躍する高いポテンシャルを持った「きとらすばい(きてるぞ!)」な俳優をご紹介します!今回のゲストはカトウシンスケさんです。

いつの間にか彼を知っている。今回のゲスト、カトウシンスケはそんな不思議な男だ。主演映画はインディペンデントシーンを賑わせ、海外で喝采を受ける作品にも欠かせない。今まさに業界に必要とされる映画俳優の一人である。

「んー、いまさら映画俳優ってことでもないですけどね。大学のサークルで芝居を始めて、就職先はすぐ辞めて俳優になって。映画も舞台もなんでもやったし、仕事がなければ自分たちで舞台を作ってきた。当時はワークショップも少なかったから色々と足掛かりを探して、キャリアがまとまりだした頃に震災があって芸能事務所にアプローチしても上手くいかなかった。あまり格好いいものじゃないです」

そう穏やかに振り返る彼の姿に苦労人という言葉は似合わない。世に出るためには誰だって苦労を要する。いつの時代も二十代で頭角を現す人間は一握りで、ましてや今ほど自己表現の出口が広くなかったあの頃は、きっと誰もがやればやるほど窒息しそうな不遇の日々を過ごしていたように思う。

「そういう意味では舞台があったからこそ踏ん張れました。常に作品と向かい合えたから、生きていられたように思う」


輝かしいキャリアではなくても力強い表現者だ。剥がれるメッキなどない。実力で階段を登り続ける者は往々にしてレコード(記録)が荒れるものである。では、どのあたりから追い風を感じるようになったか?と問えば『ケンとカズ』の出演だと彼は即答した。小路紘史監督による渾身の映画は、毎熊克哉とともに渇望と刺激に溢れていて、まさに己の存在を賭けた勝負作だった。

「ここで自分の環境や評価を変えられなければ、もう十年踏ん張るしかないと思っていました」

「ここでダメなら辞めた、ではなく?」

「俳優は続けたと思います。結局はそれしかないから」

傍らの編集部の方が「苦労しても夢中になれることを見つけた人は羨ましい」と呟いたが、それは半分正解であり不正解だろう。それしかないというのは喜びだが呪縛でもあるのだ。


ところで、現在躍進中の毎熊克哉の存在はどう映ってるの?と私は尋ねてみた。

「純粋に嬉しいですよ。納得感さえもあった。でも一言じゃ言い表せないですよ。もちろん嫉妬がなかったと言ったら噓になる。自分は器が小さいから(笑)、最初の数年は比べちゃってあれこれ言うかもしれないって公言していました。ただいつまでもウダウダ言っているようでは自分はそれまで。彼に限った話ではなく誰に対しても心が掻き乱れる時はある。でも結局は自分が何をやっているか。作品に打ち込んでいる間は比較や嫉妬なんて微塵もないわけで、自分のことをしっかりやっていればいいし、それしかないですよね。それにどの立場になっても満足は出来ないだろうし、誰かを羨ましがっている時間はないじゃないですか」

カトウさんは飄々と答えた。金言だった。映画監督だってそうだ。大谷翔平のように世界で活躍する同年代の映画監督は沢山いる。私もプロ選手の末端ではあるが、スターと比べて嫉妬してはいない。大事なのは自分のやっていることがたまらなく好きだということである。そうであれば次第に周囲の活躍も誇らしく思えるのだ。

「それはそうと、四十代でこのコーナー出ていいんですか?」と自虐する今回のきとらすばいな俳優は成熟した格好いい男だった。きっと多くの人がいつの間にかカトウシンスケを知り、そしていつの間にか惹かれていくことになる。これからもずっと。


外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。公開待機作に『茶飲友達』(2022年2月)がある。

カトウシンスケ
かとうしんすけ|俳優
1981年8月18日生まれ、東京都出身。2001年に真利子哲也監督作『ほぞ』で映画初出演。その後も多くの映画作品に出演。2016年に公開された『ケンとカズ』で第31回高崎映画祭・最優秀新進俳優賞を受賞し注目を集める。近年の主な出演作に『最初の晩餐』『風の電話』『ONODA 一万夜を越えて』『誰かの花』『ある男』などがある。ドラマ・映画・舞台・CMなど幅広い分野で活躍中。

撮影・文 / 外山文治

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外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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