僕が生まれた年に公開された最先端の恋愛映画『(ハル)』【水石亜飛夢の映画ノート page.5】 2022.12.13
水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。
今回は、森田芳光監督の『(ハル)』です。本作は水石さんが産まれた1996年に公開。顔が見えず、文字だけの“パソコン通信”で出会う二人の恋愛を描いた名作です。映画を通して当時のことを知った水石さんが感じたこと、知らない人との交流についてお話をいただきました。
『(ハル)』
恋人を亡くし、恋愛を拒否し続けた女(ほし)と、恋人と別れ自分を見失いかけていた男(ハル)。遠く離れた場所に住む2人は、パソコン通信で出会い、一度も顔を合わせることなく、お互いを理解しあい、支えあい、そして恋に落ちる。やがて、期待と不安の入り交じった気持ちを胸に“「はじめまして」(^-^)”と出会うまでの軌跡。
監督・脚本 / 森田芳光
出演 / 深津絵里、内野聖陽
販売元 / バンダイナムコフィルムワークス
©光和インターナショナル
目が離せない文字で展開していく映画
森田芳光監督の作品では『家族ゲーム』が、僕の好きな不穏さのあるテイストで印象に残っているのですが、『(ハル)』は今回初めて観ました。ネットで出会った男女のラブストーリーですが、今の時代にはない“パソコン通信”でチャットやメッセージを送り合っていて、いつ頃の話なんだろうと思ったら、僕が生まれた年に公開された映画でした。
もちろん僕は“パソコン通信”を使ったことがないのでリアルな感覚が分かるわけではないですが、相手から届いた文章を読むワクワク感や、連絡がきた!とうれしくなったり、返事が来ないな〜とソワソワする気持ちは共感します。時代が進んで、当時より便利なメールやLINEといったツールに代わっても、やりとりする人間の心の部分は変わらないんだろうなと思いました。
それこそ、二人が文字でやりとりをして関係を深めていくので、映画なのにセリフではなく文字で大事なことが展開されていく。だから、水を飲む間もないくらい本当に目が離せないんです。映画が始まるとまず、カタカタとキーボードを叩く音がして、画面に文字が映し出されます。
第一印象は正直、退屈な作品なのかな……と思ってしまいましたが、それこそが、この映画として効果的な入り方だったんだろうなと思いました。主人公の“ハル”と“ほし”が文字だけでお互いのことを知って、惹かれ合っていく姿に思慮深さを感じながら、観賞後には、「いい映画だったなぁ」という気持ちになっていました。
自分が生まれた時代の最先端「もし、自分だったら……」
僕は中学生くらいから携帯を持ち始めて、高校生の頃にはスマホになっていたくらいの世代なので、自分が生まれた時代について作品を通して知ることができました。不便そうだなって思うところもあれば、あの時代の人は言葉ひとつとっても、手軽に伝えられないからこそ、いろいろと考えながら生きてたのかな、とも感じました。
情報化社会の今は、どこでも誰でも簡単に言葉を届けられるけれど、当時の人は仕事や身の回りの人以外、特に離れている人とつながる手段はなかなかなかったんだろうし、今よりも言葉を大切にしていたんだろうなと思います。
“ハル”や“ほし”みたいにパソコン通信をしている人たちは、当時の最先端ですよね。もし僕があの時代に暮らしていたとして、作中のように会社にもまだパソコンがなく趣味として持っている人がいるくらいの普及率だったら、僕は手を出していないんじゃないかな。
iPhone Xをずっと使い続けていた人間だし、最先端のものを積極的に取り入れていくタイプではないんですよね(笑)。ただ、ハルたちが映画好きのコミュニティで知り合ったように、そういう場の楽しさを知ったら、のめり込んでしまうかもしれません。
“ハル”は中国語に興味をもってすぐ習いにいくし、アメフトをやっていたり、パソコン通信で交流した相手と会ったり、行動力があるんですよね。ハルを演じている内野聖陽さんは、映画『鋼の錬金術師』で共演させていただきましたが、どっしりとした雰囲気で器も大きい方というイメージ。お若い頃を知らなかったので、周りに振り回される若いサラリーマンを演じていらっしゃるのが新鮮でした。
最初から今のような佇まいではなくて、きっといろんな努力や経験を積み重ねて今の内野さんになられたんだろうなということも、ストーリーとは別の部分で感じながら観ていました。
性別や職業など素性を知らない人との交流
深津絵里さんが演じる“ほし”は、厄介ごとを避けるために女性であることを隠してパソコン通信をしていますが、僕自身も性差による窮屈さを感じることはあります。
例えば、女性の共演者と帰り道で二人きりにならないように気をつけなきゃとか、本当にただの友達でも相手が女性というだけで遊びに誘いづらいとか、この業界ならではの息苦しさもあります。表に出る人間ってそういうものと言われればそうだけど、はたしてどうなんだろう、と考えることはあります。
逆に、自分のことを知らない人との交流の楽しさを知った経験もあります。以前、地方での撮影があったときに、あえて地元の方が集まっていそうな飲食店に一人で行ったんですが、地元の社長さんのような人に「君、お医者の卵?」って声をかけられて。
お話を聞いてみたら、「最近この辺にいる若くてかっこいい子ってお医者の卵ばかりだから、君もそうなのかなって思ったんだよ」と。「僕は出張みたいなものです」って返したんですけど、役者ということをそこまで隠すタイプではないので、そのうち仕事の話もしたりして。
帰る時にその方が食事代を全部出してくれた上に、「こっちに来ることはなかなかないと思うけど、これも縁だから悩んだりすることがあったら連絡してよ」って連絡先を交換したんです。離れた場所で、そう言ってくれる人ができたことに心がジーンとしましたね。自分のことを知らない相手だからこそ見せられる面というのもあるだろうし、それがこの映画のように、いい関係に発展するというのも素敵ですよね。
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1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。