僕にとって『竜二』はバイブル的存在【毎熊克哉 映画と、出会い 第1回】

毎熊克哉


この連載が始まるにあたって、一作品目を何にすべきか悩みました。映画って本当にたくさんありますしね。そこで、DOKUSOマガジンの方向性に沿ってインディペンデント作品に絞ってみたところ、真っ先に浮かんだのが『竜二』です。この映画に出会ったのは20代前半の頃。強烈な印象を受けましたね。

主演の金子正次さんがすでに亡くなっていることなどは後から知りました。その頃、僕も仲間と自主映画に挑戦していましたが、なかなか自分たちが思い描くような映画作りが出来ない現実にモヤモヤしていて。誰にも求められていないのに作るのが自主映画。それを完成させて劇場で公開するのは大変なことです。この『竜二』には、金子さんたちの熱い魂が焼き付いているような気がして、定期的に鑑賞して触れたくなるんです。少し力を貸してくださいって。僕にとってバイブル的存在なんです。

ヤクザ映画っていろいろありますが、この主人公の竜二というキャラクターは、まず本当に怖いんですよね。ボソボソと小声で威嚇したり、怒鳴り声を上げたり、たまに何を言っているのか分からないところも含めて実在感がすごい。目がホンモノなんです。お芝居に関して「上手くなりたいな」と思うことは常日頃ありますが、それよりも“ホンモノがそこに実在してる“感じの方が大事なのかな?と、金子さんの竜二をみて思います。


©1983 momo.k

封切り当時は大変な話題になったそうですが、いまの感覚からすると驚きですよね。「あれ、これはいつの話だ?」と混乱してしまうくらい、時間の飛躍のさせかたとか異常ですし(笑)。でも繰り返し観ていくうちに、「脚本がいいな」と思わされるんですよ。

例えば、竜二が堅気の仕事をしている合間に、ゲートボールをしているお年寄りたちを見るシーン。あれ、竜二の気持ちがすごく分かるんです。幸せそうな光景だけれど、自分はそちら側の人生へと進めそうにない。あのシーンで竜二が何か言葉を口にするわけではありませんが、彼の心情がありありと感じ取れます。


俳優業も堅気とはほど遠い仕事で、僕自身、バイトをしながら同じように物思いに耽ったことがあります。最終的に彼は、愛する家族を捨てヤクザの世界に戻っていく。心情描写の積み重ねと流れが美しく、無駄なものがない映画ですね。

僕の俳優活動において転機となった作品に『ケンとカズ』があります。仲間たちと必死になって作った自主映画です。2002年公開の『竜二Forever』という映画があるのですが、これは金子さんをはじめ『竜二』の制作にのめり込む人々の姿を描いたもので、仲間同士で衝突する瞬間も収められています。


『ケンとカズ』のときも衝突することがありましたが、一人ひとりの情熱がぶつかり合う自主映画の醍醐味だったりするのかなと。もしも『竜二』の制作費をどこかの誰かが「好きに撮りなよ」と出していたならば、この映画は生まれていなかった気もします。

金子さん本人が自分でどうにか用意して、「君が主演では無理だ」と否定されても完成させた。やっぱり自主映画にしかできないことや、自主映画でしか到達し得ない何かがありますよね。ちなみに『ケンとカズ』以降、年に一度くらいはオラオラした役を演じていますが、実は暴力的な役が得意というわけでもなくて(苦笑)。『竜二』を参考にしたこともあります。


もともと“映画を作りたい”という思いが軸にある中で、僕はいま俳優のお仕事をさせてもらっています。俳優の仕事とは基本的に、誰かが考えた企画に呼ばれて始まるもの。演じること以外にも、誰と出会っていくかでその後の俳優人生を左右するような、奥深い仕事だと思います。

でもここ数年、原点にかえって自分で考えて始めてみたいという気持ちがあります。もちろん簡単なことではありませんが、そこには俳優としての価値観を超えた生き方があるような気がして。“誰も呼んでくれないなら自分でやってやる精神”ですかね。金子さんはそれを実現させた方だと思います。やはり『竜二』はバイブルです。


『竜二』
監督 / 川島 透 脚本 / 鈴木明夫(金子正次)
出演 / 金子正次、永島暎子、北公次、佐藤金造(桜 金造)
発売元 / ショウゲート
販売元 / アミューズソフト
税抜価格 / 3,800円
©1983 momo.k

撮影 / 角戸菜摘 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE) 文 / 折田侑駿
衣装 / ジャケット¥68200/meagratia、シャツ¥27500、デニムパンツ¥28600/ともにCULLNI <問い合わせ先>Sian PR/03−6662−5525

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毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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