家族や結婚について考えてしまいました ー 映画『空中庭園』で感じた家族のこと【水石亜飛夢の映画ノート page.4】

水石亜飛夢


水石亜飛夢さんが、いま一番気になる映画監督の過去作を鑑賞し、見どころ、印象的なシーン、俳優視点で感じたことなどをお伝えします。  今回の作品は、豊田利晃監督の『空中庭園』です。家族のこと、祖母のこと、そして結婚観についてお話いただきました。豊田監督のコメントと合わせてお楽しみください。


©2005「空中庭園」製作委員会

『空中庭園』
監督・脚本 / 豊田利晃
原作 / 角田光代
出演 / 小泉今日子、板尾創路、鈴木杏、ソニン、永作博美、大楠道代
販売元 / ポニーキャニオン
©2005「空中庭園」製作委員会

あらすじ
「家族の間で秘密をつくらない」が京橋家のルール。しかし、ふとしたきっかけで長男はラブホテルに興味があること、長女の援助交際、夫には愛人がいるなど家族の秘密が暴露されはじめる。ある日、その愛人が京橋家に乗り込んできた!そしてルールを作った母・絵里子にも知られたくない過去があった。

わず役者目線で気になった長回しシーン


©2005「空中庭園」製作委員会

「気味悪さが際立っている」が、『空中庭園』の率直な感想です。人間の気持ち悪い感じが絶妙に表現されていて、その空気感は僕のとても好きなテイストでした。中でも小泉今日子さんが暴言を吐くような役を演じておられるのを初めて観たこともあり、小泉さんの口からすごい言葉が次々出てくるのも衝撃で…。

また、カメラワークや演出、アクションシーンなどに豊田監督らしさも感じながら観ていました。特にカメラをぐるぐると回して撮っている、食卓シーンの長回しは圧巻。リハはあったのかな? それとも一発勝負で撮ったのかな? とか、そういう目線で見ちゃいましたけど、NGが出たらケーキなどの小道具が差し替えになってしまうわけじゃないですか。必然的に緊張感や集中力が生まれるので、張り詰めた家族のシーンにそういう現場の空気まで反映されているような気がします。

身の土台に影響を与えたイケイケな祖母と重なる役


登場人物で印象的だったのは、アクションシーンでガラッと作品の空気を変えた、大楠道代さんが演じるパンクなおばあちゃん。最初は「いわゆる毒親的な人なのかな…」と思っていたけれど、粋でかっこよくて、途中からは「おばあ様!」という気持ちになっていました(笑)。

実は僕の祖母も少し近いところがあります。両親が共働きだったので、小学校低学年くらいまで近くに住む祖父母のお世話になっていたんですが、当時の祖母はイケイケな感じでした。いろいろなことを教えてもらった中で、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉をよく覚えています。「奢るな、それが人間力だ」と育ててもらいました。僕を形成する土台の部分に影響を与えている存在ですね。

分たちにもきっと言っていない秘密はある


©2005「空中庭園」製作委員会

本作の家族は「隠し事をしない」というルールがある裏で、それぞれが秘密を抱えた生活をしているので“ヤバい家族”のように見えますが、実は僕たちにもそういう面があるはず。

豊田監督からいただいたコメント(記事末に記載)に「現代的な家族の風景」とありますが、僕も両親もお互いに言っていないこと、隠し事じゃなくても、言わなくていいことを多分もっている。だからこそ、家族という形を続けることができているんだろうなと感じましたし、そのバランスを保ってくれているのが母や父なんだと思うと感謝しなきゃと、今作を観て改めて思いました。

水石家にはルールとまではいかないけれど、小さい頃からずっと、「おやすみ」と言われたら「いい夢みてね〜」って返す習慣があります。今でも実家に帰った時は言っています(笑)。改めて僕にとって家族がどんなものかを考えてみると、ありきたりな言葉ですけど、“かけがえのない大切なもののひとつ”ですね。役者って博打打ちのようなものだと思うんですけど、それを無償の愛で応援してくれているなんて、「心配じゃないの!?」ってときどき思います。もちろん心配でしょうけど、だからこそ喜ばせたいんですよね。

想は30歳までに結婚!?


©2005「空中庭園」製作委員会

家族と聞くと血縁関係のイメージが強いと思うんですけど、夫婦ってもともとはまったくの他人じゃないですか。そう思うと家族の形になる夫婦ってすごいことですよね。僕も結婚願望はあって、歳を重ねるごとにラブラブになっていける夫婦が理想なので、知人から「うちの両親、今でも二人で旅行に行くんだよ」って話を聞くと、いいな、うらやましいなって。そういう方と出会って、30歳までに結婚するのが理想だけれど、職業的に早いですよね(苦笑)。


亜飛夢ロスになる人は少ないんじゃないかなぁと思っているんですけど、どうかなぁ…そんなことないのかなぁ。あまりにもみんながカラッとしているのも寂しいので、僕のわがままですけど、ちょっとはロスになってほしいなぁ…なんて。いつ何があるかはご縁次第なので、もしその時がきたら、少し寂しくなりつつも祝福していただけたらうれしいです(笑)。

田利晃監督からのコメント


プロデュサーの孫家邦から「家族の映画をやってみないか?」と一冊の本を渡された。その夜に衣装の宮本まさ江と小泉今日子でご飯を食べる約束をしていた。もらったばかりのその本を小泉今日子に渡した。「この映画をやりましょう」。翌日、本屋に行って、その本を買って読んだ。自分が一生描くことができない女性の心理の家族の物語だった。その本は『空中庭園』という。タイトルから家族が蜘蛛の糸のような不安定な糸に吊られ揺れているイメージが脳裏に残った。それは現代的な家族の風景だと思う。血の雨が降り続ける中、生まれ変わったように叫ぶ小泉今日子の姿を見た。35ミリのフィルムが回転を止めるまでカットはかけなかった。撮影所が血の海のように染まった。僕は小泉さんに「誕生日おめでとうございます」と声をかけた。何かが生まれ、蘇るような映画だったと思っている。

豊田利晃
とよだとしあき|映画監督
1969年大阪府生まれ。1991年、阪本順治監督『王手』の脚本家として映画界にデビュー。1998年、千原浩史(千原ジュニア)主演『ポルノスター』で監督デビューし数々の映画賞を受賞。近作に『狼煙が呼ぶ』『破壊の日』『全員切腹』『戦慄せしめよ』『生きている』などがある。次回作『次元を超える』のクラウドファンディングを実施中。

今回の記事を含む、ミニシアター限定配布のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」11月号についてはこちら。
⇒DOKUSOマガジン11月号(vol.14)、11月5日発行!表紙・巻頭は寺島しのぶ!

お近くに配布劇場が無いという方は「DOKUSOマガジン定期購読のご案内」をご覧ください。

撮影 / 西村満 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 木内真奈美(OTIE) 文 / 大谷和美
衣装 / ジャケット¥52,800、シャツ¥33,000/すべてOhal(JOYEUX)<問い合わせ先>JOYEUX/03-4361-4464

水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

この連載の人気記事 すべて見る
今読まれてます RANKING